「今宵も喫茶ドードーのキッチンで。」標野凪/双葉文庫

 自己肯定力。切実に欲しいと思う力の一つだ。自己肯定感が特に低いとき、必ずといっていいほど心の中で雨が降っている感じがする。この作品に出てくる客も自己肯定力が低かったり、心が雨模様だったり…。そんな彼らを癒やすのは、お一人さま専用のカフェだ。

 この作品は、住宅地の奥で静かに営業しているお一人さま専用カフェ「喫茶ドードー」を舞台にした、連作短編集。この喫茶店に来店する客は、現代人ならではの悩みを抱えている。“ていねいな暮らし”に振り回されたり、ひとりで仕事を抱え込んでしまったり…。そんな頑張りすぎて疲れた心を、店主のそろりと一風変わった名前のメニューが癒やしていく。カフェでの時間を経て、だんだんと客の心に日が差し、読み手の心もほぐしてくれる。

 著者の標野さんは、小説家として執筆活動をしている傍ら、東京でカフェ店主としても活躍している。そんな彼女の文章から、カフェ特有の柔らかい空気感や居心地のよさをぜひ感じてほしい。

 幸せとはなにか―。この問いに対してそろりは「穏やかな時が過ごせること」と答えている。全編通して幸せの在り方を考えさせられる作品だ。(双葉文庫/693円)

(コンテンツ部・池田知恵)