佐賀新聞社による主権者教育の出前授業が5日、鳥栖市の鳥栖商業高で開かれた。全校生徒約430人が参加し、鳥栖のまちづくりをテーマとする模擬選挙で候補者を選ぶポイントについて考えを深めたほか、講話では自分の意見を表明する手段として1票を投じる意義を改めて学んだ。授業の内容を詳報する。(志垣直哉)

候補者役4人が主張
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模擬選挙は生徒4人が候補者役を務め、鳥栖市をより良くするアイデアを動画で主張した。視聴した生徒たちは自分の考えと照らし合わせ、互いに意見も交わしながら投票先を決めた。
候補者役の生徒は鳥栖市の現状を踏まえ、ウオーキングを促すアプリの開発と市民の健康増進、プロスポーツチームを生かした子どもたちの健全育成、道路環境や誰でも利用しやすい公共交通環境の整備、清掃活動やレクリエーションを通じた住民同士の交流促進といったアイデアを主張した。
佐賀新聞鳥栖支社の樋渡光憲支社長が講評し「鳥栖市のニーズや問題と合ったオリジナルな意見が多いと思った」と生徒たちの問題意識を評価した。その上で「実際の選挙でも、候補者は何をしたいのか言っている。新聞でぜひそこを読んでほしい。自分と同じ考えを言っている人がきっといる」と呼びかけた。
模擬選挙 候補者の主張
健康増進へ歩数計アプリ配布
田中蒼唯さん

【主 張】
鳥栖市民の健康増進に貢献できるまちにする。佐賀県が進める「歩くライフスタイル」を鳥栖でも取り入れる。市民が使える歩数計アプリを開発し無料で配布、歩く楽しみも提供する。
楽しみとは(1)土・日曜限定で歩いた分のポイントを獲得でき、買い物などに使えるようにする(2)体力づくり、趣味、子どもたちの学習などニーズに応じたモデルコースを設定する(3)歩いた距離に合わせて鳥栖から日本各地へ旅行に行ける特典をつける―の3点。以上のコースや特典は希望を募った上で実現するようにする。
【支持理由】
▷市民の健康増進につながる。
▷コースの施設を利用すれば地域経済も回せる。
▷歩くだけでポイントが稼げて買い物に使えるのはとてもお得。
【講 評】
大手保険会社とタイアップすると全国初の取り組みができると思った。ある保険会社は、スポーツや健康診断でポイントがもらえる保険商品を開発し、加入者は入院する確率が低いようだ。時代を先取りしていて、市と保険会社で話がまとまれば注目される。
スポーツ活用、暮らし豊かに
島添瑛太郎さん

【主 張】
鳥栖にはサガン鳥栖や久光スプリングスという全国区のプロスポーツチームがあり、駅前不動産スタジアムやサロンパスアリーナがある。子どもたちの夢を育む方法としてスポーツを活用すべきだ。運動が不得意な子どものことも考える。
両チームの試合に鳥栖地区の小中学生を招待。スタジアムやアリーナでは体験会を開く。健康的な体づくりなどの講話も開く。
障害者スポーツへの理解は全ての人が豊かに生きていくために大切。スポーツを手がかりに大人も子ども楽しく豊かに暮らせるまちを目指す。
【支持理由】
▷スポーツが好きじゃない子どもにも配慮している。
▷鳥栖の特長を生かした提案で、子どもの未来のためになり、多様性への理解にもつながる。
【講 評】
久光スプリングスは11月から、子ども向けにアカデミーを始めた。バレーボールが上手な子に限らず、提案と同じ思いのようだ。サロンパスアリーナの一般開放にも力を入れている。市民ともっと仲良くなる取り組みは、プロチームも助けるアイデアだ。
交通環境整備で生活充実へ
原田蓮さん

【主 張】
交通の要衝であることは鳥栖市の発展に重要だが、歩行者には危険な道も多い。幹線道路に歩道・自転車道を設け、ガードレールを取り付ける。まちなかの狭い道は一方通行にし、カーブミラーや歩行者用信号を設ける。歩道は車いすが通れる広さを確保する。
近くのJR肥前麓駅は生徒の約3分の1が使うが、エレベーターがない。利用しづらい人のためにバス路線を整え、便数やバス停を増やす。ライドシェアも活用し、きめ細かな交通網をつくる。交通手段を便利にすることは住民生活の充実につながる。
【支持理由】
▷歩行者と車のどちらの安全も守られる。
▷交通機関を使えない体の不自由な人たちのことを考えた政策。ぜひ実現してほしい。
【講 評】
共交通機関の利便性は2月の鳥栖市長選でも話題になった。鳥栖は交通の要衝だが、高速道路や国道が大雨や雪で通行止めになると、まちなかで大渋滞が起きる弱点もある。主張の内容は、いままさに鳥栖市長が取り組もうとしている鳥栖の宿題だ。
あいさつ、笑顔あふれるまち
古賀葵さん

【主 張】
地域活性化を進めながら、住民が生き生きとしたまちづくりを目指す。近年、人々のつながりが薄れ対立する事例も増えている。高齢者が詐欺に遭う事件は鳥栖でも発生している。気持ちよく過ごすとは、地域が美しく整えられ、住民同士が仲良くできることだ。
月に1度、住民同士コミュニケーションを取りながらまちのごみ拾いを行う。ゲームや料理、スポーツなどを楽しみながら絆を深める交流会を開く。地域コミュニティーの輪が広がり、まち全体にあいさつと笑顔があふれる。鳥栖をそんなまちにしたい。
【支持理由】
▷子どもからお年寄りまでのコミュニティーは少ない。
▷交流することで、災害時に助け合い、地域により関心を持てそう。
【講 評】
鳥栖市に転勤して来たので、つながりがない大変さが分かる。今の時代、住民同士の会話は少ない。一方で、隣同士の仲がいいまちという主張は最先端のアイデアかもしれない。互いが顔見知りだと犯罪も起こりにくく、いろいろな面でプラスの効果が出る。
■講話 多久島文樹 NIE推進担当デスク
主権者とは、自分たちの地域や県、国の政治や経済、生活の在り方を決める中心人物。主権者として願いを持ち、実現を託せる人を選ぶのが選挙だ。
最近の鳥栖の選挙は、2月の市長選が44・44%、昨年12月の知事選が25・56%と低迷しているが、市長選は702票差、2021年11月の市議選は6票差で当落が決まるなど、接戦となっている。
投票を「面倒くさい」といった声も聞くが、最近は大型商業施設や大学、地域を巡回するバスでも期日前投票ができるところがある。昨年の知事選は佐賀工業高にも期日前投票所ができた。近年の選挙では投票率の低下が進む傍ら、期日前投票の投票率は伸びており、休みの日にわざわざ投票所に行くという形は変わってきている。
模擬選挙でさまざまな意見が出たように、投票先を選ぶときは自分の考えを大事に選べばいい。知識や経験を身に付け、考えとして表明することが大事だ。

■感想 ワークシートから
【1年】
■佐々木那乃さん
中学校でも選挙について勉強したけど、まだ18歳じゃないから関係ないと思っていた。投票は18歳からでも、候補者がどのようなことに取り組もうとしているかなど、今からでも考えることはできると思った。
■池尻夕真さん
模擬選挙で4人の3年生が出した意見が、実際に考えられているということにビビッと来た。四つともいい意見だったので、反映されるのもそう遠くないと思うと少しだけ興味が持てた。
■内山真央さん
模擬選挙が思ったよりも難しく、立候補者の4人の取り組みがいいものばかりで、選んでいてすごく楽しかった。自分が選挙権を得たときに、立候補者の話をよく聞いてより良い世の中にできる人を選びたい。自分が選んだ人が当選したら、本当にいい活動ができる人なのかを見て次の選挙に役立てたい。
【2年】
■久保山栞奈さん
人によって公約がそれぞれで、どれも良くて、本当の選挙のようだった。全てがいい公約だったときに、“自分にとって”だけではなく、近所の人のことを考えたり、社会的にいいことなのか考えたりするのも選挙の一つだなと学ぶことができた。
■中村愛さん
たまに見る選挙の情報も、全て難しく書いてあって結局何が言いたいのかよく分からないことがあった。もう少し分かりやすくなればいいなと思う。住んでいるまちの問題の改善法を考えるってすごく難しいなと思った。
■山田七星さん
選挙で投票することが、どの世代も当たり前にならないといけないと思った。自分たちの世代が投票に行かないと、ずっと現状維持で何も変わらないと思うので、積極的に行動したい。
【3年】
■田中蒼唯さん
候補者として提案し、みんなが真剣に投票してくれたことがうれしかった。投票する側とされる側の両方を経験できたことは、とても自分のためになった。
■平野杏奈さん
自分の1票が社会を変える要因となる重要性を、深く考えて投票しなければならない。18歳になり、選挙に関することにもしっかり目を向け、自分が住むまちのことにも興味を向けることを心がけていきたい。
■前迫莉奈さん
実際に選挙をして、さまざまな意見があることに気づかされた。しっかり自分の意見を持ちながらも、周りの意見に耳を傾けることで新しく共感できる点が見つかったのがよかった。