それでも世界は何も変わってなかった

 鳥栖市出身のデジタルアーティストwataboku(ワタボク)さんの絵は、制服を着た女子高生がクールなまなざしでこちらを見つめる。3年前から制服と女子高生の絵を描き続け、女優の池田エライザさんやモデルのうちだゆうほさん、音楽ユニット「水曜日のカンパネラ」のコムアイさんを描いた作品で人気を集めた。昨年12月にアートブックを出版し、東京都で開いた個展に続いて、24日から大阪府で巡回展も始まった。作品のイメージを壊さないために顔、年齢、性別を明かさず活動するwatabokuさんに、デジタルアートとの出会いや作品に込めた思いを聞いた。

 

絵のルーツ 漫画家だった父

 watabokuさんは幼いころ、自分が生まれる前まで漫画家だった父親によく絵を描いてもらった。4歳上の姉も絵を描くのが好きで、二人の背中を追うように絵を描いていた。

 美術部に入ったのは高校からで、それまでは教科書やノートに落書きをする程度だった。友人に誘われて中学時代からバンドを組み、絵よりも音楽活動に熱中した。ただ、東京の大学で絵の勉強を始めた姉の姿が頭の片隅にあった。放課後の部室でデッサンに没頭し、初めて絵と真剣に向かい合う。

 絵を描くのが好きでも仕事にできるか不安で、大学では車や電化製品の商品デザインを学んだ。卒業後は、商品の企画でデザイン力を生かせる福岡県の食品会社に就職した。

 デジタルで描かれた絵に魅了されたのはこのころで、当時、世界的に知名度の高かった海外のアート系SNS(会員制交流サイト)に投稿された写実性の高い作品に触発された。すぐにパソコンで絵を描くためのタッチパネルとペンを購入し、デジタル作品の創作を始めた。老若男女を問わず、何でも描いて海外サイトを中心に投稿し、閲覧数は一晩で200ほどだったものが次第に400、500と増えていった。

 バンドマンとしても活動し、仕事と絵と音楽全てを掛け持つのに限界を感じていたころ、何気なく見た有名アーティストのミュージックビデオに引かれた。これを仕事にすれば音楽に関わりながらデザインを生かせると考えた。

 2012年、約3年半勤めた会社を辞め、東京に拠点を移す。東京は父親が漫画家として生きた場所。社会人になったばかりのころに病気で亡くなった父。その父が漫画を描いていた東京への思いを抑えきれなかった。

窒息

求めた表現に到達

 東京でミュージックビデオを制作するデザイン事務所に入り、撮影現場に足を踏み入れた。映像に関心が高まり絵のことを忘れるほど熱中したが、緊迫した現場で大勢いるスタッフをまとめ、次々と明確な指示を出していく監督を見て自分には無理だと感じた。自信のある分野を伸ばして音楽に関わろうと、デザインの仕事に専念した。

 2年ほど過ぎ、仕事に慣れたころ。引っ越しで家の整理をしていると、古い作品データが見つかった。東京のクリエイターに囲まれ、質の高い作品を見て過ごした自分の目には、過去の絵がひどく下手に映った。

 「今ならもっといい物が作れる」。上京前にクリエイターとして活動した時の名前「わたし、ぼく、おれ」を縮め「wataboku」と名乗り、再び絵を描き始めた。

 描きたい題材を考える時、中学・高校時代に仲のよかった女友達を思い返した。あまり感情表現しないツンケンした子で、その雰囲気をもとに白シャツを着たショートヘアで冷たい表情を浮かべる女の子を描いた「KUMO(くも)」を完成させた。清潔感があって、無意味なようにも謎めいたようにも見え、自分が無意識に求めていた表現が集約されている気がした。以降、制服の女子高生をシリーズで描き続け、フェイスブックやツイッターなどのSNSに投稿した。「感染」「それでも世界は何も変わってなかった」などのオリジナル作品やモデル、アーティストを描いた作品を発表すると、SNSへの反応を示す通知でスマートフォンが鳴りっぱなしになるほど大きな反響があった。

 現在もツイッター(@wataboku_)やインスタグラム(wataboku_)、フェイスブックなどのSNSに投稿し、インスタグラムのフォロワーは3万8000人を超える。

KUMO

絵に込めた“記号”

感染

 絵は「記号性」「普遍性」がテーマで、最初からイメージがあるのではなく、描きながら形にしていく。下書きをシャーペンで描いたり、水彩の表現を実際に描いてパソコンに読み込んだりアナログの要素を取り入れることもあり、1枚の絵は10時間ほどで完成する。

 「それでも世界は何も変わってなかった」「窒息」など印象的な言葉が並ぶタイトルは、絵とは別に日常の中でひらめいたもの。絵と言葉が完全に一致しないのも表現の一部で、できあがった作品にメモの中から一番近い言葉を付けている。

 「すべての作品に自分にしかわからない記号がある」。昨年12月に出版した初のアートブック「感0(かんぜろ)」の冒頭文。作品の“記号”は見た人が探してほしいとwatabokuさん。

 昨年で制服のシリーズを描き続けて2年になり、今回の本の出版や東京、大阪での個展を一区切りにする。

 絵と真剣に向き合って約10年。水彩や色鉛筆、アナログにデジタルなど、右往左往しながら今のスタイルにたどり着いたように、これからも地道に活動しながら新しい作品を生み出していく。

■大阪で巡回展

 watabokuさんの巡回展「きみ、あなた、おまえ-大阪水素-」は24~30日(11時半~23時、土曜のみ12時~)、大阪市のギャラリーで食事も楽しめる「ディグミーアウト アート&ダイナー)」(中央区西心斎橋2-9-32アローホテルB1)で開催。問い合わせはディグミーアウト、電話06(6213)1007。

クリエイターを目指すみなさんへ

 やったことがなくても、やりたいことがある人は1秒でも早くそれに触って熱いか冷たいか確かめた方がいい。食わず嫌いをしないというか、何でも次に生かせるからちゅうちょせず、どんどんやってみた方がいいと思います。一緒に頑張りましょう。

 

wataboku(ワタボク)

 

 鳥栖高出身。福岡県の食品会社に勤めながら、デジタル作品をSNSに発表。東京のデザイン事務所に拠点を移し、CDジャケット・演劇ポスターなどのデザイン業務のかたわら、作品の制作を続ける。女性バンド「tricot」の中嶋イッキュウ、「赤い公園」の歌川菜穂など、数多くのアーティストやモデルとのコラボレーション企画で注目を集める。
 昨年12月、自身初となるアートブック「感0(かんぜろ)」を発売し、東京で初個展「きみ、あなた、おまえ」も開催した。24日から30日には、大阪府大阪市の飲食店「ディグミーアウト」で巡回展を開く。

★クリエイターズカフェとは

佐賀県出身、または佐賀で活躍しているクリエイターを紹介していきます。(カフェ=人が集まる場、情報交換のできる場所。Visitor(ナンバリング)=訪問者、客。)

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