県内で初めて出土した「築山古墳盾持人埴輪」。独立した盾を前面に持たせる、全国的にも珍しい形態で表現されている

盾持人埴輪の実測図。顔に入れ墨を施し、冠のような帽子をかぶっているのが分かる

 佐賀県内で初めて出土した、盾を構える武人の埴輪(はにわ)「盾持人(たてもちびと)埴輪」が、独立した盾を前面に持たせる全国的にも珍しい表現形態だったことが12日、佐賀市の調査で分かった。大和町の前方後円墳「築山(つきやま)古墳」(6世紀後半)の出土品で、顔に入れ墨を施し、冠に似た帽子をかぶったリアルな姿で表されている。

 埴輪は、円筒状の人物部分が高さ50・1センチ、胴体の径が19・5センチ。盾は高さ28・0センチ、幅17・0センチ。上半身が良好な状態で残っており、本来は高さ1メートルほどだったと推定される。

 顔にはネコのひげのような入れ墨が複数刻まれており、「魏志倭人伝」が倭人の習俗として伝えた「鯨面文身(げいめんぶんしん)」の表現と考えられる。頭部は正面中央を切り込んだ2本の角のような形に線刻を施しており、冠状の帽子とみられる。顔と盾の一部に赤色顔料が残っており、祭事用の化粧を表した可能性もある。

 通常、埴輪の盾は体の脇に帯をつけただけの簡略化した形で表現される。今回は独立した盾を体の正面に構えた体勢で、盾には三角形や縦横の線刻で細かな装飾が施されている。

 埴輪は2019年2月、古墳の南西部の民家建築に伴う調査で発見。地表から深さ60センチの地点で古墳の周りに巡らせた溝「周溝」が確認され、さらに20センチ掘り下げた場所に、顔を伏せた状態で埋まっていた。

 築山古墳は全長約60メートル。内部は横穴式石室で、明治時代の盗掘により勾玉(まがたま)や管玉が出土したとされる。墳丘の上部から、1144年に納められた国重文「瓦経(がきょう)」が出土している。古墳は前方部分が大きく削られ、現在は公園として整備されている。

 埴輪の調査を終えた佐賀市は12日、重要文化財への指定を市文化財保護審議会に諮問した。審議会の重藤輝行佐賀大教授(考古学)は「別の盾の破片も確認されており、複数の盾持人埴輪が配置されていたと考えられる。佐賀市内では最大級の古墳であり、被葬者はこの地域の有力者だろう」と話している。(古賀史生)