育児相談を受けていると、母親の涙に遭遇することがあります。産後の女性が、ふと涙をこぼしたり、涙があふれて止まらないと、産後うつ病ではないかと心配になります。病気ではないとしても、育児や家事で心身ともに余裕がなく、限界に達しているのは間違いありません。

 専門家でもなければ、目の前で突然泣かれると困ってしまいます。焦って泣きやませようとするかもしれません。しかし、無理に感情を抑えさせ、泣くのをやめさせる行為は、相手の心を余計に苦しめ、疲れさせるだけで、何のメリットもありません。このような場合には、思いっきり泣かせてあげましょう。ティッシュを差し出したり、背中をさすったり、つらかったですねと声をかけたりしながら、泣きに寄り添い、落ち着くのを待ちます。

 思いっきり泣いた後に、気持ちがすっきりした経験がありませんか。号泣することで、涙とともに悲しみや怒り、不安、不満が吐き出されます。有田秀穂氏(セロトニン研究の世界的権威、医師・脳生理学者)によると、涙を流すことで、ストレス状態にある脳が一時的にリセットされます。しかし、泣けばいいというものではありません。ドライアイを防ぐ涙や玉ねぎを切ったときに出る涙には、ストレス解消効果はありません。悲しいときや感動したときに流す涙が重要なのです。

 これを受けて、寺井広樹氏が考案・提唱した、1カ月間に2~3分、意識的に泣くことでストレス解消を図る活動、「涙活(るいかつ)」が広がりを見せています。映画や音楽鑑賞、朗読会、泣語(なくご=泣ける話に特化した人情話)など、イベントが各地で行われています。語呂合わせから7月9日は「泣く日」だそうです。

 泣く行為を抑制されている大人は、時には涙活が必要かもしれません。特に、産後は、慣れない育児・家事と仕事の両立で、母親も父親も大きなストレスを抱えています。産後うつ病を予防するためにも、涙活を始めてはいかがでしょう。

 (佐賀大学名誉教授、一般社団法人ヘルスサポーターズ・イノベーション理事 佐藤珠美)