旅館大村屋スタッフ

 旅館やホテルの予約は、ほぼインターネット経由になった。大村屋でいうと、予約全体の8割がインターネット、電話は2割。現場では、ゲストからかかってくる電話で予約に関するさまざまな問い合わせに答えている。しかし、最終的には「ポイントが付くから、○○netから予約します」といわれることも多い。宿側の思いとしては、時間をかけてスタッフが電話対応したのだから、そのまま直接予約いただきたいのが本音だ。それはなぜか。

 現在では、OTA(オンライン・トラベル・エージェント)といわれるオンライン上の旅行会社が多数存在し、主流となっている。国内ではじゃらんnetや楽天トラベルなどがあるが、そこから予約が入ると宿側は10~15%の手数料をエージェントに支払わなければならない。それに消費税の10%を入れると、売り上げの約25%はなくなる。例えば、1人の宿泊代が2万円としても手数料と消費税を引くと1万5000円になる。そこから食材費や人件費、販管費を賄う。さらに支払いがクレジットカードだと、約3%の決済手数料がかかる。

 日本旅館協会が2018年に発表した「営業状況等統計調査」によると、旅館の営業利益率の平均は2%。2万円の売り上げで最終的に残るのは400円という計算だ。2%というのは平均値だが、営業利益率が10%いけば良いといわれるのが日本の旅館業だ。そんな状況でエージェントに払う手数料は大きい。やはり、われわれからすれば電話や公式ホームページからの直接予約はうれしいことなのだ。

 また近年は食材費や水道光熱費、人件費の高騰もあり、宿泊単価を上げざるを得ない状況が続いている。私が事業継承した14年前は、平日の1泊2食で1人1万2000円が嬉野温泉の平均価格だったが、今この値段では利益は残らない。現在、嬉野温泉の平均価格は約1万8000円。今後も原価が上がっていくことを加味すると、2万円以上でないと前向きな経営はできないだろう。

 われわれは、コストパフォーマンスを重視し、クーポンも大好きで「安くて良いもの」を求める傾向が強い。しかし、そのお得の裏では店側が負担を強いられていることを知るべきだ。お気に入りの宿があれば、公式ホームページや電話で手数料のかからない直接予約をお願いしたい。それが自分の好きな宿にできるコスパの良い「心付け」だ。

北川健太(嬉野温泉・旅館大村屋15代目)