「オタク女子が、4人で暮らしてみたら。」藤谷千明/幻冬舎

 肩が痛い、お金がない、物が増えていく、パートナーと別れた…。将来に対して大きな不安を抱いた著者の解決策は、オタク女子たちとのルームシェアだった―。

 互いの本名すら知らなかった彼女たちの、絶妙な距離感で過ごす実際の共同生活を記録した一冊だ。

 ルームシェアの様子はもちろん、メンバー募集や物件探し、入居時の金銭事情なども赤裸々に明かされている。新しいジャンルや推しにハマったら気分がハイになる現象を「新規ハイ」というが、引っ越ししたことで起きたその現象と家事の解釈違い、湿気のせいでプランターに植えていたイチゴに引かれてナメクジが文明を築こうとしている…など、どのエピソードもくすっと笑ってしまう。

 会話やLINEなどのやりとりも要所要所で挟んであるため、肩に力を入れずに著者の講演を“聞いている”感覚で読み進められる。また、それぞれが何かしらを推しているため、その熱量に共感したり、「あんさんぶるスターズ!」「ポプテピピック」といったアニメなどのタイトルも書かれているため、その作品を知っているファン心もくすぐったりする。

 特に印象的だったのは、「家の中での価値観の共有が大事であって、外での行動に制限はない」という一言だ。このつかず離れずな距離感を保つことこそ、著者たちの共同生活が円滑に進んでいる秘訣(ひけつ)であり、良好な人間関係を築くという面でも重要だと思う。

 誰かと暮らす=結婚や同せい、実家暮らしというイメージに行き着くことが多い。だが今は多様性の時代。家族でも恋人でもない相手とのこういう暮らしも、生活の選択肢として面白いのではないだろうか。

(幻冬舎/660円)

(コンテンツ部・池田知恵)