村上春樹さんの新作『街とその不確かな壁』を読んだ。「壁」の解釈など核心の部分はさておき、物語の重要な舞台の一つとなる福島県の小さな町の図書館が印象に残った◆唐津市出身の児童文学作家福田隆浩さんの『この素晴らしき世界に生まれて』も、人と本をつなぐ公共図書館が魅力的に描かれる。福田さんは障害児教育に携わりながら創作活動を続け、昨年11月、『たぶんみんなは知らないこと』で「野間児童文芸賞」を受賞した◆福田さんが児童文学作家の道を目指した一つのきっかけが「佐賀新聞童話賞」の入賞だったことを3月、本紙ひろば欄への投稿で知った。この賞は1976年に始まり93年で休止したが、福田さんのほか、第1回一席の権藤千秋さんらを輩出。県内の児童文学の活性化に大きな足跡を残した。地方紙が担うべき役割、意義を再認識する◆『街とその不確かな壁』では、読む本全てを自分の知識にできる異才の少年が登場する。うらやましい半面、どれだけたくさんの本を読んでも結局、「心の血肉」となる本の数は決まっていると思う。そんな本にいつ、どこで出合えるかが人生の妙味だろう◆大型連休初日のきのうはあいにくの雨だった。でも「晴耕雨読」といわれるように、「雨の祝日は家族で図書館」も悪くない。5月12日まで「こどもの読書週間」。(義)
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