ヤハズエンドウ(カラスノエンドウ) 撮影・小松常光

 一般にはカラスノエンドウとして広く知られている雑草であるが、植物の専門家はヤハズエンドウと呼ぶ。

 この植物は、葉の付け根の部分から甘い蜜を出してアリを引き寄せ、植物を食べる昆虫から身を守ってもらっている。

 ただし、春先になると、ヤハズエンドウの茎の先端付近に、緑色のアブラムシがびっしりと付いていることがある。ソラマメヒゲナガアブラムシである。

 頼みのアリは、アブラムシの近くに来るが追い払わないようだ。ひょっとすると植物との区別が付いていないのかもしれない。

 以前からヤハズエンドウのこのような光景をしばしば目撃し、かわいそうなほどアブラムシに加害されているな、と思っていた。

 ところが、近年の研究によると、このアブラムシがたくさん付いていても、ヤハズエンドウが枯れることはなく、種子の実る時期が少し遅れはするものの、最終的にできる種子の数は変わらないそうである。

 場所によっては、ヤハズエンドウに黒色のマメアブラムシという昆虫が付いていることがある。予備的に実験してみると、マメアブラムシの方が植物への影響が大きく、ヤハズエンドウが枯れてしまう場合もあるようだ。

 マメアブラムシは、甘露と呼ばれる甘い液体を提供してアリに身を守ってもらう昆虫である。

 植物とアリ、複数のアブラムシ、その天敵であるテントウムシ、さらに、アブラムシが媒介する植物のウイルス病など、今の時期はヤハズエンドウを舞台にさまざまな生き物たちの攻防が繰り広げられている。いつか、彼らの人となりも紹介したい。(佐賀大農学部教授・徳田誠)