製造現場などの第一線で活躍している企業や個人をたたえる「第9回ものづくり日本大賞」(経済産業省など主催)で、優秀賞に日本タングステン基山工場(三養基郡基山町)が、九州経済産業局長賞には県内から3企業が選ばれた。事業環境の変化に対応し、新たな付加価値を生み出す取り組みについて紹介する。(古賀真理子)

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■優秀賞 日本タングステン基山工場

強化プラスチック量産へ新材料 部品交換回数削減に貢献

ものづくり日本大賞優秀賞に選ばれた日本タングステン基山工場のメンバー=福岡市内のホテル

 タングステンを主体としたレアメタル材料製品や超硬合金製品などの開発、販売を手がける日本タングステンの基山工場(三養基郡基山町)の黒木史哉さんら6人は、強化プラスチックを量産する機械部品の耐久性を高める新材料を開発した。電気自動車などに用いる強化樹脂の製造で課題だった生産機械部品の消耗を減らし、部品交換回数の削減や生産性向上に貢献した。

 世界的に電気自動車の製造が進む中、搭載する電池が重いことから車体部品の軽量化が求められ、従来の鉄鋼材料などから強化プラスチックを使う動きが広がっている。
 自動車部品として耐えられるよう、プラスチックにはガラスファイバーなどの強化剤や難燃剤を加えている。ただ、強化剤の硬質材料や添加剤のリン酸などが、製造過程でプラスチック原料と添加剤を混ぜ合わせる二軸押し出し機の部材を摩耗、腐食させるのがボトルネックになっていた。

 高い硬度の超硬合金製造で知られる同社は、この課題を解決する超硬合金、セラミックス、鉄鋼材料による新材料の配合組成を検討。既存材料の優れた特徴を生かしつつ、重さやもろさの欠点を補い合う新材料を開発した。従来の押し出し機部品より10倍以上の長寿命化を図った。

 同社は「部材交換削減によるコストダウン、摩耗による部品からの金属混入低減による品質向上、耐摩耗性と耐腐食性の両立で管理工数の削減にもつながった」とメリットを強調している。

 

■九州経済産業局長賞 グリーンテクノ21(佐賀市)

卵の殻再資源化システム構築

 グリーンテクノ21(佐賀市)の下浩史社長ら5人と、佐賀県工業技術センターの柘植(つげ)圭介さんは、食品廃棄物である卵の殻を再資源化するシステムを構築し、ライン材やロジンバッグ、肥料などの商品として市場に展開する事業モデルが評価された。
 同社は、卵の殻が大量に出る食品製造工場に直接、独自開発した乾燥粉砕機を設置。卵殻排出側の廃棄コストと、同社の原料調達コストの双方を抑える仕組みを取り入れた。原料調達コストを抑えたことで、卵殻をリサイクルした製品を既存製品と同レベルの価格で市場投入することを可能にした。
 リサイクル製品の価格高と原料調達のコスト高の課題を解消したことで、持続可能な事業の構築だけでなく、廃棄物削減などによる持続可能な社会づくりにも貢献している。

 

■九州経済産業局長賞 ワイビーエム(唐津市)

正確な施工へICT地盤改良機

 建設機械メーカーのワイビーエム(唐津市)の平川真吾さんら7人は、ICT地盤改良機の開発を手がけた。建物を建てる際などの地盤強化で、機械の誘導によるくいの設置を可能にし、正確な施工の実現と人手不足の中で省力化にもつなげた。

 従来の地盤改良は、くいの位置に人が機械を誘導し造成していた。ICT地盤改良機は設計データを基に作ったくいの位置のマシンガイダンスデータを、機械のオペレーターにモニターで提供して施工。現場での人員削減を可能にした。

 補強した位置の検査も、従来は数カ所を掘り起こして確認していたが、GPS(衛星利用測位システム)の活用で施工位置が正確になり、不要になった。熟練技能者の減少や高齢化など人手確保が難しくなる建設現場の課題を解決するシステムとして注目されている。

 

■九州経済産業局長賞 唐津プレシジョン(唐津市)

自動車などの大型歯車加工機開発

 工作機械メーカーの唐津プレシジョン(唐津市)の三好宏明さんら6人は、最新の加工法により、自動車などの減速機の部品である大型歯車を加工する機械を開発し、生産性と加工精度の向上を実現した。

 同社は、産業機械に欠かせない減速機の部品である内歯車の加工機械が主力製品の一つ。大型の内歯車は、従来の加工方法では生産速度と精度の課題があり、その解消へギヤスカイビング加工による生産機械を開発した。工具と工作物を同期して高速回転させて削る加工法で、大型向けにいち早く取り入れた。

 同社によると、納入先の大手建機メーカーでは生産性が6倍に改善されたという。また、大型建機に搭載される歯の高さが18ミリあるモジュール8を加工することも可能で、国内のメーカーでは同社が唯一だという。