イヌツゲなどのモチノキ属植物の脇芽には、タマバエにより球形の虫こぶが形成される。虫こぶの内部にはいくつかのトンネル状の構造があり、その中にタマバエの幼虫が1匹ずつ入っている。イヌツゲの虫こぶは、1902年に出版された書籍の中でハエの仲間が形成するものとして紹介されており、日本に生息するタマバエの中ではもっとも早くに知られていたものの一つである。
その後、ソヨゴやナナミノキやモチノキ、ヒメモチなど、さまざまなモチノキ属植物で同じような形状の虫こぶが見つかった。
佐賀県内では、雑木林に行くと、イヌツゲやナナミノキでこの虫こぶがよく見られる。
「ここで会ったが百年目」、というと、物事の終わりの決まり文句であるが、筆者はイヌツゲの虫こぶが紹介されて、ちょうど百年目に当たる頃から、これらのタマバエの研究を始めた。
そして、国内のさまざまなモチノキ属で見られる虫こぶは、イヌツゲタマバエとソヨゴタマバエという2種により形成されること、前者はイヌツゲの仲間のみ、後者はそれ以外のモチノキ属植物に虫こぶを形成することなどが明らかになった。
遺伝子の分析から、これらのタマバエは数百万年前に二つの種に分かれたこと、ソヨゴタマバエは古くから本州や九州に生息していたのに対し、イヌツゲタマバエは比較的新しい時代になって、南西諸島から九州以北に生息域を広げたことが推察された。
読者の皆さまからの温かい励ましに支えられ、おかげさまで本連載も50回を迎え、まもなく一年の節目となる。これからも、日々の生き物たち、そして人々との出会いを大切にしながら、一歩ずつ進んでいきたい。(佐賀大農学部准教授・徳田誠)