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大賞とは驚きで、言葉が出てこない。今まで賞とは無縁の人生だったので、夢のようで、まだ現実感がない。小説を書き始めたのは、50歳を過ぎてから。笹沢左保さんの作品は股旅ものが大好きで、むさぼるようにして読み文章を書き写したこともある。その賞をもらえ、感激だ。先人の築いた巨大な文学山脈を見上げると足がなえ、進む気力も失いがちだったが、受賞で、まず一歩進むよう背中を押された感じ。もっと面白い物語がかけるよう、見果てぬ夢を追い求めていきたい。
K県の山道脇の山林で鈴木巡査部長の惨殺死体が発見されたが、事件は未解決のままであった。 そのころ、能の後見(歌舞伎の黒衣に相当)である野沢誠一(30)は五神竜之進(31)が主催する能楽一座に入門する。五神は革新的な能舞台を自らが演出し、演じ、その美貌とあいまってマスコミの注目となっていた。 五神は天才的な技量をもっていたが、その出自には謎が多かった。また、舞台が前衛的であるため、能の評論家たちは一斉に五神に非難を浴びせた。その急先鋒(ぽう)となったのが大御所の鵜飼栄次郎であった。 ところが、K県警本部の元交通部長が殺されたのを機に五神への攻撃はやんでしまう。 まもなく五神が鵜飼を自らの能舞台に招待し、鵜飼は応じた。演目は『隅田川』である。奇妙なことに舞台が進むにつれて鵜飼の様子がおかしいのに野沢は気がつく。あきらかに鵜飼は何かにおびえていた。 野沢が鵜飼を調べてみると、鵜飼はかつて交通事故を起こし、五神の両親が乗った車は大破炎上し、五神だけが助かっていた。しかし、警察では五神の父のほうに非があるとし、鵜飼は被害者とみなされていた。だが、目撃者の証言によれば、鵜飼はむしろ加害者のようであった。どうも警察に不正の匂いが感じられ、疑惑が残っていた。 真相をただすべく鵜飼が仕事場としている軽井沢の別荘に野沢は向かった。そこで見たものは恐怖に満ちた能舞台であった。
50歳から小説を書き始め、あらゆる賞に応募してきたが、上位16人に入ったのが最高だった。最終選考に残り、審査の先生方に作品を読んでもらうだけで十分なのに、まさか入賞するとは思わなかった。私自身、元囲碁棋士で、小説も囲碁の世界を題材にした。現役引退後は小説を通じて囲碁の魅力を伝えたいと心がけてきたので受賞はとても励みになった。
これまで書いてきたのは現代小説が中心で、初めての時代小説への挑戦。呼子の捕鯨文化をテーマに据えたが、史料調査などに不安もあり、奨励賞受賞の知らせには正直、驚いた。佐賀に戻って15年。これからも地元に根差し、地方から発信する小説を目指したい。