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食の情景

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本社年次企画「食の情景」トークセッション (10年12月19日)

人を育てる命の源 地産地消で循環を

 

パネリスト

 福山隆志さん(御船が丘小栄養教諭)
 白濱美保子さん(オリザジャポニカクラブ代表)

コーディネーター

 富吉賢太郎(佐賀新聞社論説委員長)

 佐賀新聞社は1月から10月まで連載した年次企画「食の情景~さが暮らし再考」の締めくくりとして、佐賀市のアバンセでトークセッションを開いた。規則正しい食生活の大切さや地産地消による地域経済の活性化、食を通した人格形成など、現状の課題を挙げながら食育の目指す方向性について意見を交わした。論議の内容を詳報する。

 

写真 写真 写真
コーディネーター 富吉賢太郎 白濱美保子さん 福山隆志さん

 

 富吉 人間が育つ上で知育、徳育、体育、食育という大切な四つの学びがある。少し昔に時間を戻せば、日々の暮らしの中にこの四つの学びがバランスよくあった。それがいつのころからか、知育偏重になってしまったのではないか。ここ数年、まずは食育からしっかりやろうという動きが広がっている。最初に、それぞれが実践している食育の取り組みや思いを語ってほしい。

 

 福山 望ましい社会をつくるには教育が鍵であり、学校教育に食育を定着させていきたい。御船が丘小では大豆を栽培している。畑を耕し、種をまき、草を取り、8月には花が咲いてさやがついた。ハスモンヨトウ注意報が出て葉が虫だらけになったりもしたが、無事に収穫した枝豆は五感で味わうように指導した。

 色や形、におい、手触りなど目、鼻、耳、口、手を使って、どう感じたかを表現させる。御船が丘小は国語の力、表現力を伸ばすことを研究テーマにしており、それに沿って感情を言葉にできるよう取り組んだ。自分たちで作った物を食べる感激は、ほかの人が作ってくれた物を食べる時の思いにもつながる。食べ物を通して子どもを育むことが私の仕事であり、喜びでもある。

 

 白濱 酵素ポークという豚肉の販売・流通を手がけている。母親として自分の子どもに何を食べさせるかが出発点で、自分の目で確かめ、「これは大丈夫」と思う物しか人には薦められない。
 食品の流通に携わるようになって全身全霊をかけて食と向き合い、自分の子どもを育てるように愛情を注いでいる人たちと出会った。その過程で「食について、私はそこまで深く考えてきたのか」と反省させられた。
 食育基本法にはいろいろ記されているが、「国は自分の命は自分で守れと言っているんだな」と解釈している。そのためには足元を見つめ直すことが大切で、まずは生産する人たちが元気にならなければならない。命の源である食を大切にする心を育みながら、地産地消で経済の循環をつくっていきたい。それが本当の食育だと思っている。

 

 富吉 地産地消という言葉が出た。原点は明治時代の軍医石塚左玄が仏教の「身土不二」という言葉を引いて、自分が生まれた土地の作物を正しく食すべきだと説いたことにある。地産地消について思うことは。

 

 福山 学校給食で地産地消を進めているが、あくまで学校教育の中の給食なので「地産地“育”」の取り組みといえる。地域の食べ物で、地域の子どもたちを育てる。生産者の思いを学校給食で具体化していくことが「地産地消の教育版」だと考えている。

 

 富吉 以前、学校給食に関してアレルギーのある子どもの母親から投書があった。学校は子どものために1年間、特別に給食を作ったが、2年目から「これ以上はできないので弁当を持たせてくれ」と言われたそうだ。
 母親は子どものために栄養教諭を雇ってくれと頼んだが、聞き入れられなかった。投書は「食育がうたわれる時代、たった一人の子どもをケアできないのが食育でしょうか」という問いかけだった。この話を聞いてどんな感想を持つか。

 

 福山 母親には子どもを守るという強い思いがあり、勇気を持って投書されたと思う。学校は子どもを預かり、教育の一環として給食をしている責任がある。みんなで給食を食べている教室で、特定の子どもだけに弁当を食べさせられない。
 アレルギーはさまざまだが、新たに職員を雇わなくても数人の大人が努力を分かち合えば対応できる。1年で対応をやめず、もっと努力すべきではなかったかと感じた。

 

 白濱 私の娘はトマトや白砂糖がだめで、アレルギー症状が出る場合がある。唇がはれたり、かゆくなったりした時は「はきだす」「洗う」など対処の仕方を教える。それも生きる力であり、しっかり伝えておくことは母親の役割だと思う。ただ、アレルギーは命にかかわる場合もあるので、投書した母親の主張については賛否の判断が難しいなと思った。

 

 富吉 次に、食育を実践する中で感じている課題を挙げてほしい。

 

 福山 朝ごはんを食べてこない子どもがいる。問題は朝ごはんを食べられない生活を送っていること。子どもは大人と一緒に暮らしているが、大人のわがままに巻き込まれてはいないか。大人には大人の事情があるだろうが、一生のうち子どもと過ごす時間は短い。子育て中の親は今を大切に、親子の時間を過ごしてほしい。

 

 白濱 ある幼稚園で、子どもたちが「きょうは何味だった?」「コンソメ味」「塩味」などと話していた。何のことかと思ったら、朝ごはんの代わりに食べてきたポテトチップスの話だったと先生が嘆いていた。
 さすがにポテトチップスはどうかと思うが、やむを得ない事情で買ってきた弁当や総菜を食べさることはあるだろう。そんな時、皿に盛って出すだけで違ってくるのではないか。規則正しい食生活ができない時、ちょっとした工夫や手間を掛ける気持ちを持ちたい。

 

 富吉 ここで会場からも意見を聞きてみたい。
 男性参加者 食育に取り組んでいると、生産者との結びつきは強くなるが、販売との連携はどうだろうか。地域に根ざした販売店と結びつくことで地域力が高まり、大きな輪が広がると思う。

 

 福山 学校給食ではブラックボックス化が指摘される。意見を聞いて思うのは、学校給食ではどんな食材を求めているのか、種類や品質、衛生管理などについて情報公開し、学校給食の食材確保に広く参加してもらうことの大切さだ。それが生産者を支え、流通業者の商圏拡大にもつながる。

 

 白濱 有田町の経済対策会議に参加している。生産者に、いろんな種類の作物を提供できる作付けをしてもらえないかと提案している。現状では時期によって作物が偏るので、ダンピングも起きる。消費量から作付けを割り出し、計画的に作ればどの自治体でも地産地消が可能になるのでは。

 

 富吉 最後に、あらためて食育への思いを。

 

 福山 競争社会にあって「今のままのあなたでいいよ」と互いに受容する関係をつくっていかなければとても生きづらい。食育が目指す方向は、他人を丸のまま受け入れられる人格を形成していくことと重なる。食育はいい物を食べて、健康になることにとどまらず、人間を育てていくこと。よりよい人格形成を食育の最終目標として取り組んでいきたい。

 

~連載を終えて~

実践のきっかけに

 

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 年次企画「食の情景」は、序章から最終第5部まで52回にわたって掲載した。家庭の実態、健康との関係、生産・加工・流通現場など食を取り巻く「情景」を描き、一人一人に見つめ直してもらおうという企画だった。
 取材では、真剣に食と向き合う多くの人から話を聞いた。耕作放棄地を復元する農業者、ニーズに応えようと品種改良に取り組む研究者、「安全・安心」を届けるため、知恵を絞る流通業者-。各現場で奮闘する人たちの思いを取材した。
 最終部「理想を追って」は、地域の伝統料理や親子のきずなを確かめる「弁当の日」などを取り上げたが、何が“理想”なのかに答えはない。生産者の理想が消費者にとっての理想とは限らないし、生活スタイルなどによって求めるものは違ってくる。
 食育についても同じで「何をすればいいのか分からない」という声をよく聞く。福山隆志さんにそんな話をしていたら「多少、お仕着せになってもいいから、自分がやらなければと思うことを実践していくしかないですね」と話していた。
 食の問題は幅が広い。一つの取り組みですべてを解決できるわけではないが、「こうあった方がいい」とそれぞれが描く理想に向けて行動してみる。今回の連載が、一人一人が考え、実践するきっかけになればと思う。
(「食の情景」取材班)

 

【写真】食育をテーマに行われた「食の情景」トークセッション=佐賀市のアバンセ

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