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ひきこもり自立支援で被害 実態なく高額契約

関東の母娘「軟禁」と業者提訴

2017年05月01日 18時54分

ひきこもりの人の自立支援をうたう業者を提訴した母親=4月
ひきこもりの人の自立支援をうたう業者を提訴した母親=4月

 ひきこもりの人の自立支援をうたう業者に、実態のない活動名目で多額の契約料を支払わされるなどの被害が各地で相次いでいる。関東在住の20代女性と母親は4月、家族間のトラブルを相談した東京都内の業者を相手取り、慰謝料など約1700万円の損害賠償を求める訴えを東京地裁に起こした。女性は自宅から無理やり連れ出され、暴力や脅しで軟禁状態に置かれたとしている。3カ月分の契約料約570万円を支払ったが、支援は行われなかったという。

 内閣府調査では、ひきこもりは全国に54万人(15~39歳)で長期化、高年齢化が進む。公的な相談窓口が限られる中、就労訓練などを掲げる民間業者が各地で急増。今回の提訴ケースのように拉致・監禁まがいの手口で連れ出し、高額の料金を請求する「引き出し屋」と呼ばれる悪質業者の存在も指摘されている。

 国民生活センターには「工場で働くと説明されたが場所を教えてくれない」「子どもに会いたいと言っても『親を憎んでいるから』と拒否される」など複数の業者に関する相談が寄せられ、国による実態把握が急務だ。訴状などによると、女性はひきこもりではなかったが、2015年9月に家族間のトラブルがきっかけで、母親を平手でたたいた。母親は家族関係に悩み、元警察官が代表を務めるという業者の「なんでも相談室」をインターネットで見つけ、電話をかけた。

 業者はすぐに事務所に来るよう指示。部屋には有名政治家と一緒の写真が飾られ、政府と連携を図っていると説明し、「娘さんの未来を買いましょう」「情に負けてはいけません」などと約7時間にわたり説得した。母親は意識がもうろうとしたまま契約書にサインをし、社会復帰支援の名目で契約料を支払った。

 約10日後、業者のスタッフ約8人が母親を立ち会わせ、女性が1人で住むマンションのドアチェーンを壊して室内に侵入。女性をワゴン車で賃貸アパートの1室に連れて行き、「逃げれば友人がどうなるか分からないぞ」などと脅して約1カ月間軟禁状態に置いたほか、殴ったり蹴ったりすることもあったという。

 複数の関係者によると、この業者は親の依頼で北海道や福島、京都にまで出向き、主にひきこもりの20~30代の男女を集め、関東地方のアパートや民家でスタッフと共同生活をさせている。共同通信の取材に対し、顧問弁護士を通じ「訴状が届いておらず、コメントできない」としている。

■「殺される」恐怖今も警察は助けず

「いつ殺されるか。怖くてたまらない」。ひきこもりの自立支援をうたう業者を提訴した関東在住の20代の女性は、今も眠れず、心的外傷後ストレス障害(PTSD)が続く。それでも「悪質業者の実態が誰にも知られないままでは、新たな被害者が生まれてしまう」と、共同通信の取材に自らの体験を証言した。

    *     * 

 2015年9月のある日、夕方に1人暮らしをしている自宅マンションのチャイムが鳴った。「お母さんだよ」。10日前に激しい言い争いをした母親の優しい声。ただならぬ気配を感じた。

 ソファで震えていると、「ガチャン」と大きな音がして、母親とともに工具を持った黒スーツの男たちが現れた。ドアのロックは壊されていた。

 「お母さんに暴力をふるいましたね」。「はい」と答えると、そのまま両脇を抱えられ、駐車場に止めてあったワゴン車に乗せられた。たどり着いたのは自宅から遠く離れた「寮」と称する賃貸アパートの1室。家具はなく、与えられたのはペットボトルの水と布団だけだった。

 監視役のスタッフの目を盗み、友人の力を借りて逃げ出した。警察にも何度か駆け込んだ。だが警察官は「この人は問題があり、親から預かっている」という業者の言葉しか信じてくれない。アパートに連れ戻され、長時間正座をさせられた。殴る、蹴る、箸で刺すなどの暴行も受けた。

 笑顔のピースサインを強要され、写真を撮られた。後で知ったことだが、業者は写真を両親に送って信用させた上で、警察から連絡があっても「業者に任せている」と答えるよう指示していた。

 「従順を装って油断させるしかない」。抵抗をやめると警戒が緩くなった。隙を見て実家に戻り、業者へ電話するよう頼んだ。「娘さんは(アパートで)元気にしていますよ」。説明がうそだと分かり、親の“洗脳”がようやく解けた。

    *     * 

 複数の関係者によると、この業者は親の同意を得て、子どもを自宅から連れ出す日を「実行日」と呼ぶ。抵抗すれば逮捕術を教えられた複数のスタッフが力ずくで車に押し込む。カウンセリングなどの専門家は不在で、自立のためのプログラムは行われていない。

 提訴すれば業者から報復を受けるのでは、との恐れもあったが、女性の決意は固い。「ひきこもりやニートというレッテルで価値のない人間のように扱い、わが子を思う親心を巧みに利用する。その実態を法廷で明らかにしたい」【共同】

 ひきこもりの体験談や、自立支援業者による被害の情報などを、共同通信「ひきこもり取材班」までお寄せください。ファクスは03(6252)8745、電子メールはkurashi@kyodonews.jpです。

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