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「分断の海」(7) みんなの海

=諫早湾閉め切り20年=

2017年04月16日 09時39分

ラムサール条約の湿地登録を受け、新たに設置された望遠鏡。小学生たちが干潟や野鳥を観察している=佐賀県鹿島市の新籠海岸
ラムサール条約の湿地登録を受け、新たに設置された望遠鏡。小学生たちが干潟や野鳥を観察している=佐賀県鹿島市の新籠海岸

■関心高め干潟を次代へ

 佐賀県鹿島市の新籠(しんごもり)海岸の見晴台に、新たに望遠鏡が設置された。目の前に広がるのは、国際的に重要な湿地を保全する「ラムサール条約」の登録湿地となった肥前鹿島干潟。今年3月に除幕式があり、子どもたちが列を作ってのぞき込んだ。

 ラムサール条約は、湿地の保全と人の営みを両立させ、持続的な恩恵を受けることを目的とする。そのための情報交換や教育などの推進もうたっている。

 有明海沿岸で最初に登録されたのは、熊本県荒尾市の荒尾干潟。ハマシギなど多くの渡り鳥が飛来する。日本野鳥の会熊本県支部の安尾征三郎さん(77)=同市=が1999年から荒尾干潟の野鳥調査を始め、積み重ねたデータがラムサールの登録基準を満たす証明となった。

 安尾さんは以前、悔しい思いをしたことがある。90年代に国際空港建設の計画が浮上し、荒尾などの干潟が埋め立てられる危機に直面した。結果的に立ち消えになったが、干潟の貴重さを具体的には示せなかった。渡り鳥の飛来地として知られていた対岸の諫早湾は20年前の閉め切りで湾奥の干潟が消えた。

 「野鳥がやって来るのは干潟に生物がたくさんいて食物連鎖が機能しているという豊かさの証し。鳥が来なくなってからじゃ遅い。豊かな海を次世代に引き継ぐのが今を生きる大人の責務」。荒尾では漁業との共存もできているという。

 鹿島市の干潟展望館のチーフ中村安弘さん(37)は「生物が豊かで未知の部分も多い面白い海」と有明海の魅力を語る。干潟の祭典「鹿島ガタリンピック」の舞台となり、最近は国内で発見例のなかったクラゲの侵入種が見つかっている。

 昔は干潟でアゲマキが採れ、子どもも足を運ぶ「おかず取り」の場だった。いつしか不漁になり、心の距離も遠くなった。さらに諫早湾干拓事業で漁業不振や諍(いさか)いの声が強調された。「産業だけの視点で語られてないか」。特有の生物など身近な魅力を伝えようと、展望館内のミニ水族館運営や小学校の出前授業に取り組んできた。

 佐賀市の東よか干潟を含め有明海沿岸の登録湿地は3カ所。中村さんは沿岸を行き来して市民活動をつなげ、順番に発行する広報紙も始めた。「まずは海を身近に感じてもらえるように市民の関心を底上げし、輪を広げることが大切。それが環境の保全につながり、開発の抑止力にもなる」

 新籠海岸で望遠鏡をのぞいていたのは、鹿島市内の小学生でつくる「こどもラムサール観察隊」。昨年6月から活動、野鳥観察や泥んこになる干潟体験、源流をたどる山登りを楽しむ。「有明海のことをよく知らなかったけど、干潟の生き物とかいろいろ知った。他の干潟にも行ってみたい」。メンバーの眞崎悠羽さん(10)は笑顔を見せた。

 諫早湾干拓事業を巡り、長年にわたって分断されてきた海。次世代に残す海に境があってはならない。=おわり

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