現在位置:

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 印刷

原発20キロ圏・楢葉町ルポ 帰還住民2割足らず

2017年03月11日 10時52分

黒い袋に入れられた除染廃棄物が並べられ、その後ろには焼却施設が見える。「元通りの町には戻らない」と語る堀井さん=3月5日、福島県楢葉町
黒い袋に入れられた除染廃棄物が並べられ、その後ろには焼却施設が見える。「元通りの町には戻らない」と語る堀井さん=3月5日、福島県楢葉町
復興が進む楢葉町。左側の海沿いには壊れた震災前の防潮堤があり、その内側に新しい防潮堤、防災林、道路の建設が進む。右側には黒い袋に入った除染廃棄物が並んでいる=3月6日
復興が進む楢葉町。左側の海沿いには壊れた震災前の防潮堤があり、その内側に新しい防潮堤、防災林、道路の建設が進む。右側には黒い袋に入った除染廃棄物が並んでいる=3月6日

■積み上がる除染廃棄物

 避難の元町民「ここで暮らしたかった」

 昼間訪れた時には住宅街があったはずなのに、日が落ちても家の明かりはほとんどともらない。福島県楢葉町。1年半前に避難指示が解除されたが、帰還した住民は2割にとどかない。「再稼働する、しないは佐賀の人たちが決めればいい。でも、決める前に福島を見に来た方がいい」。東日本大震災から6年。九州電力玄海原発の再稼働の前提となる佐賀県の同意手続きが大詰めを迎える中、福島の今を歩いた。

 原発事故の対応拠点だったJヴィレッジから東京電力福島第1原発へと続く国道6号をレンタカーで走ると道路脇の田んぼに積み上げられた除染廃棄物の黒い袋が目に飛び込む。朝夕はフロントガラスに許可証を張った廃炉作業員の車で大渋滞するが、昼間の交通量は多くない。

 楢葉町は大半が福島第1原発から20キロ圏に入り、避難指示区域に指定された。2015年9月に指示が解除された後も約7300人の人口の6割以上が南側のいわき市に身を寄せる。

 その一人、堀井憲司さん(72)は家を新築して2年半後に被災した。「町は戻ってこいと言うけど、ここで何をしたらいいのかね」。国道から山手に入ると、田んぼには太陽光発電のソーラーパネルが敷き詰められていた。山道を除染廃棄物の焼却炉に向かう大型車が行き交う。近くに住む叔母の家は現在、除染作業の事業者に貸している。

 除染作業員の集合住宅の駐車場には神戸、宮城、秋田といった県外ナンバーの車が目立つ。コンビニは弁当を求める作業員で混雑する。「確かに診療所も学校もでき、インフラは復旧した。しかし、地域のコミュニティーはなくなり、居場所がない。もう元通りの故郷には戻らない」。堀井さんは仮設住宅を出て、かかりつけ医のいるいわき市に住居を構えることを決めた。妻佐喜子さん(68)も「親やきょうだい、子どもとここで暮らしたかった。原発事故は地震や津波とは違う。故郷を奪ってしまう」。

    ■    ■ 

 堀井さんのように町に帰還しない判断をする人は少なくない。復興庁の意識調査では「戻りたい」と答えた町民は3割強。すでに戻った人と合わせても約5割で、震災直後の7割に及ばない。「6年たってしまったことが大きい。仕事や子どもの進学、それぞれの事情ができてしまった」。一方で避難先のいわき市は地価が上昇している。町復興推進課の酒主秀寛係長は「帰還者の半数以上がお年寄り。将来を担う子どもや若い世代に戻ってきてもらいたい」と語る。

 『エネルギー福祉都市 自然と科学が創造する豊かな郷土』。国道沿いの看板がかつての町の姿を想像させる。隣町との境には福島第2原発があり、原発関連の交付金で潤った。基幹産業は農業だが、原発ができる前は冬場に出稼ぎに出ていたという。

 町民の半数が原発関連の仕事に携わっていたという。酒主さんは「福島第2原発は廃炉にすべき。それは県も町も一致した意見だが、だからと言って手のひら返しに東電をたたこうとも思わない。この先も楢葉はずっと東電と歩いて行くしかない」

 町のイベントには東電社員の復興担当が駆け付けて準備を手伝う。自営の消防組織を持ち、町内一斉ごみ拾いにも参加する。今後、廃炉や除染の研究機関や事業所の職員らが宿舎で生活する。町の中心部ではその造成工事が続いている。

 「震災前、財政力のあった行政に町民は頼り切っていた。これからは町民が主役の身の丈にあった新しい町づくりが求められる」。酒主さんは原発依存の町で事故を経験したからこそ、佐賀県民の再稼働判断については「すべきともすべきでないとも言えない。出稼ぎ農業に戻れとはなかなか言えない」と慎重に言葉を選ぶ。

 「正直、自分は原発事故が起こるなんて本気で思っていなかった。佐賀の人たちも福島を遠目に見ながら実感できないのかもしれない。しかし、どのような判断をするにせよ、事故は起こり得るという前提で、全力で備えておいた方がいい」。長期間、広範囲の避難を強いられる原発事故。そのゴールはいまだ見えない。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 印刷

記事アクセスランキング