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旅するシネマ(23)「悪人」(2010年)

李相日監督

2016年12月19日 10時13分

試写会であいさつする(左から)深津絵里さん、妻夫木聡さん=2010年9月
試写会であいさつする(左から)深津絵里さん、妻夫木聡さん=2010年9月
「悪人」スタンダード・エディション、DVD発売中、3800円(税別)、発売元:アミューズソフト、販売元:東宝
「悪人」スタンダード・エディション、DVD発売中、3800円(税別)、発売元:アミューズソフト、販売元:東宝
撮影の合間に訪れた時に、仲代達也(左)やピーター(中央)ら出演者が書いたサイン色紙が並ぶ=唐津市鎮西町の「大手門食堂」
撮影の合間に訪れた時に、仲代達也(左)やピーター(中央)ら出演者が書いたサイン色紙が並ぶ=唐津市鎮西町の「大手門食堂」
旅するシネマ(23)「悪人」(2010年)
旅するシネマ(23)「悪人」(2010年)

■地方の若者の孤独描く

 枯れて色をなくした風景が余計に寂しさを誘う。冬の佐賀平野。いつ見ても、どこへ行っても代わり映えがしないこの土地を、作家は「録画された映像を、繰り返し流しているような町」と表現した。

 映画「悪人」は、長崎市出身の作家吉田修一の小説が原作で、佐賀、長崎、福岡の3県が舞台。佐賀ロケは2009年11~12月、佐賀市を中心に十数カ所で行われた。

 李相日(リサンイル)監督は「原作を読んで主人公が抱える閉塞(へいそく)感や孤独感が、分かるようで分からなかった」という。それをつかむ手掛かりを土地に求めたのだろうか。県フィルムコミッションで撮影の手伝いをした江島宏さん(46)は「たくさんの映画に関わってきたが、あれほどロケ地にこだわった監督はほかにいなかった」と振り返る。

 主人公の祐一(妻夫木聡)と光代(深津絵里)が出会った佐賀駅前、呼子のイカ料理屋など、佐賀の人にはなじみ深い場所だけでなく、光代が働く紳士服量販店やラブホテルといった屋内だけのシーンも現地でカメラを回した。

 李監督が特にこだわったのは、光代の住むアパートだ。職場との間を自転車で往復するだけの、退屈な毎日を送る29歳独身女性の部屋。江島さんたちが2カ月以上探し回っても監督は首を縦に振らず、九州ロケがスタートする前日にようやく決まった。

 光代は、通った小学、中学、高校も職場もすべて国道34号沿いにあった。福岡方面と長崎市をつなぐ道路は交通量が多く、目の前を行き交う車を眺めながら、こう思ったのかもしれない。

 私もどこかへ行きたい。ここではないどこかへ-。

 すがるような思いで手を伸ばした出会い系サイト。そこで知り合った祐一という男からは、自分と同じ孤独の匂いがした。長いトンネルから抜け出せそうな予感で心が浮き立ち始めた矢先、祐一から「自分は殺人者だ」と告白される。

 そこから2人の逃避行が始まるが、遠くへ逃げるわけでもなく、近辺をさまようばかり。一日でも、一時間でも一緒にいたいという切なる願いも、すぐに断たれてしまう。

 映画は現代人の孤独や危うさを浮き彫りにした人間ドラマとして高い評価を受けたが、地方の閉塞感も強く印象に刻まれ、佐賀の人には苦い後味を残した。

 原作の新聞連載から10年。地方に住む若者の心模様は、少し変化しているようだ。「ここではないどこか」ではなく、「今、ここ」で人とつながり、豊かに生きようとする人が増えていると聞く。それは、「大切な人」ができてから、光代に芽生えた気持ちと同じような気がする。

=おわり=

■MEMORY 【BAR YAMAZAKI】妻夫木さんが両親と誕生会

 悪人の佐賀ロケがあったのは11月下旬から1カ月。寒風吹きすさぶ中での撮影は、李相日監督の妥協を知らない厳しい演出もあり、相当に過酷だったという。そんな中、妻夫木聡さんは、たまに夜の街に出て好きな酒で息抜きをした。

 佐賀市白山の「BARYAMAZAKI」がお気に入りだったらしく、ロケが終了した12月23日の夜もここで過ごした。10日前に29歳の誕生日を迎えていて、両親を呼んでささやかな誕生会を開いた。

 マスターの山崎秀幸さん(57)は「親子ともにとても気さくで、妻夫木さんの高校時代のやんちゃなエピソードで盛り上がりました」。さわやかなイケメン俳優はこの作品を機に、大人の実力派へと成長。年を重ねるごとに男ぶりに磨きがかかり、「日本を代表する俳優になられて、すごいですよね」。サインをしてもらったコースターを大事に持っている。

■ストーリー

 佐賀、福岡の県境にある三瀬峠で、若い女性の絞殺体が見つかった。殺したのは、長崎の小さな漁村に住む土木作業員の青年、清水祐一(妻夫木聡)。捜査の手が迫る中、祐一は馬込光代(深津絵里)と知り合い、互いに引かれ合うようになる。

 祐一はなぜ、人を殺したのか。光代はなぜ、殺人者との逃避行を決意したのか。登場人物たちの心理を多面的に描いた人間ドラマになっている。

 出演はほかに満島ひかり、岡田将生、柄本明、樹木希林ら。2010年公開。カラー、139分。

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