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旅するシネマ(17)「トラック野郎 男一匹桃次郎」(1977年)

鈴木則文監督

2016年09月19日 09時42分

威勢の良い掛け声とともに巡行に出発する3番曳山「亀と浦島太郎」=唐津市の唐津神社(2015年11月3日撮影)
威勢の良い掛け声とともに巡行に出発する3番曳山「亀と浦島太郎」=唐津市の唐津神社(2015年11月3日撮影)
旅するシネマ(17)「トラック野郎 男一匹桃次郎」(1977年)
昭和の雰囲気を再現したデコトラ
昭和の雰囲気を再現したデコトラ
「トラック野郎 男一匹桃次郎」3024円(税込み)、DVD発売中、東映ビデオ
「トラック野郎 男一匹桃次郎」3024円(税込み)、DVD発売中、東映ビデオ
集会所に飾られたロケの写真を手に、当時を振り返る岡了さん=唐津市材木町
集会所に飾られたロケの写真を手に、当時を振り返る岡了さん=唐津市材木町

■勇壮な曳山とスター競演

 厳しい残暑が和らぎ、かすかな秋の気配が感じられる季節。唐津のまちが一年で一番盛り上がる「唐津くんち」の曳山囃子(やまばやし)が聞こえてくるにはまだ少し早い。落ち着いた雰囲気の城下町を歩きながら、豪華絢爛(けんらん)で勇壮な曳山と、時代を彩った映画スターたちの競演に思いをはせる。

 1977年公開の「トラック野郎 男一匹桃次郎」。菅原文太が主演する大人気シリーズの第6弾で、唐津市が主な舞台だ。シリーズは「仁義なき戦い」などでシリアスなやくざ役が定着していた菅原が、本格的にコメディーに挑戦した意欲作であり、東映のドル箱として全10作が作られた。

 唐津くんちの期間に合わせて3日間のロケが行われた。菅原に加え、相棒役の愛川欽也、マドンナ役で映画初出演の夏目雅子など豪華キャストが集結。当時の佐賀新聞は「『文太兄い』と観衆からゲキが飛んだ」「ファンで黒山の人だかり」などと熱気あふれるロケの様子を伝えている。

 中でも目玉シーンは星桃次郎(菅原)が、3番曳山「亀と浦島太郎」(材木町)に乗る場面だ。当時、町の副取締だった岡了さん(80)は「ロケに来ていることは知っていたが、うちの曳山に乗るとは聞いていなくて本当に驚いた」と振り返る。全国から訪れる観光客(当時)は3日間で約25万人。ファンらが混乱することを恐れ、どの曳山にどこで乗るかは直前まで極秘だったようだ。

 曳山の上で「エンヤ、エンヤ」と威勢の良い掛け声を上げる菅原は、まさに時の人。岡さんは「ほんとによか男やった」と懐かしむ。3番曳山に乗ったのは町内にあった映画館の経営者が紹介したのが縁だったそうで、その夜は菅原とくんち料理を囲んで大宴会になったという。

 唐津ロケはくんち以外でも盛り上がった。舞鶴橋近くの桟橋で桃次郎がマドンナの小早川雅子(夏目)に結婚を申し込む場面は多くの人が見物した。近くの旅館の高木淳子さん(82)はロケと聞き、従業員や家族と急いでベランダへ。「大勢の人に囲まれてもすぐに分かるほど文太さんは目立っていて、格好良かったことをはっきり覚えている」。このほか、白砂青松で知られる虹の松原や唐津焼の窯元でも撮影され、唐津の魅力を全国に発信した。

 映画のクライマックスでは、桃次郎が恋人について行こうか迷う雅子を唐津から鹿児島空港まで送り届ける。きらびやかな電飾で飾ったトラックが、警察車両とデッドヒートを繰り広げながら疾走する場面は迫力満点だ。

 情に厚く、自分のことはそっちのけで人助けに突っ走る桃次郎の姿は、今の時代が失いつつある「男らしさ」や「粋」の象徴だろう。いなせな曳(ひ)き子たちが力を振り絞る唐津くんちとイメージがぴたりと重なり、作品の魅力を高めている。

■ストーリー

 一番星こと星桃次郎(菅原文太)は、助けた男の案内で訪れたドライブイン「唐津乙女」で、女子大生の小早川雅子(夏目雅子)に一目ぼれ。ヤモメのジョナサン(愛川欽也)一家と一緒に阿蘇山や唐津くんちなど九州を観光し、距離を縮めていく。しかし雅子には結婚を約束した相手がいた。恋人の村瀬薫(清水健太郎)は実家の借金を抱え、新たな人生を始めるためブラジルに旅立とうとしていた。桃次郎はついて行こうか迷う雅子を一喝し、満艦飾のトラックで鹿児島空港まで送り届ける。1977年公開。カラー103分。

■MEMORY「デコトラ」

 もう一つの主役今も健在

 菅原文太や愛川欽也ら魅力的な俳優陣とともに、「トラック野郎」のもう一つの主役といえるのは、きらびやかな電飾やペイントを施したデコトラ(デコレーショントラック)だ。かつては国道や休憩所でよく見かけたが、この映画がブームのきっかけだった。

 鳥栖市でトラック用品店を経営する亀山享弘さん(60)は「以前と比べると、だいぶ数が減った」と残念がる。荷主や運送会社が飾りを禁止するケースが増えたほか、ドライバーの収入減や免許制度の改正も影響しているという。

 それでも愛好者は今も健在で、チャリティー撮影会などが各地で開かれている。店の常連の河原基晴さん(42)=福岡県小郡市=は、昭和50年代のトラックを購入し、当時の装飾を完全に再現した。「トラック野郎の映画は何度も見た。派手さと目立つことが魅力です」。デコトラは平成の世も走り続ける。

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