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8月23日付
 「名月を取ってくれろと泣く子かな」「やせ蛙(がえる)負けるな一茶ここにあり」。信濃で生まれた江戸時代の俳人小林一茶(1763~1828年)の句は何ともたおやかで分かりやすい◆3歳で母を亡くした。8歳の時、新しい母がやって来たが、厳しい継母になじめなかった一茶は15歳の春に江戸へ奉公に出された。たった一人、奉公先で苦労しながらも俳句の道を目指した一茶に「手向くるやむしりたがりし赤い花」の句がある◆「手向くる」は神仏に供えること。後はそのまま、むしりたがった赤い花。一茶は4人の子をもうけたが、いずれも幼くして亡くしている。この句は亡くなった娘のために作ったもので表面上の意味は決して難しくはない。だが、花に対する人の思いを巡らしながら読んでみると実に奥が深い◆一茶が生きた江戸時代、たとえ野の花でさえそれを無造作にむしり取ったり、折ることを人はためらった。幼子でさえ仏となって初めて折ることが許される。花、鼻、端。これら「はな」と読む文字は「気が集中する先端」という共通の意味がある。まさしくその先端に色とりどりの花を咲かせる「花」に対する畏怖(いふ)のようなものがこの句の背景にある◆「ほら、お前があんなにもむしりたがっていた赤い花だよ。今やっとここに手向けてあげることができたよ」。わが子が欲しがった花を手折って一茶はそう語りかけているのだ。花に寄せる日本人の日本人らしい感覚が伝わってくる◆まだ残暑厳しいが、道ばたにはちらほら秋の花を見かけるようになった。心静かに野の花に心を寄せてみるといい。少しは暑さから逃れられるかもしれない。いつも自然を慈しんで生きてきた日本人の謙虚な思いを取り戻せるかもしれない。(賢)