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最終章 ここで生きる[10] 豊かさの再定義

2015年03月31日 10時13分

次代へ(写真と本文は関係ありません)=撮影・鶴澤弘樹
次代へ(写真と本文は関係ありません)=撮影・鶴澤弘樹

■地域ごと多様なあり方

 急速な人口減少が進む地域社会で、私たちはどのように「幸福な未来」を描いていけばいいのか。

 高齢化に伴い、介護のあり方や、いかに人生を終えるかという問題に関心が高まる一方、人口流出などで空き家が増加しつつある集落は、環境整備や防災の担い手がいないなど、将来にわたって共同体を維持していけるか、深刻な悩みに直面している。それは、人と人とのつながりが実感できないことへの不安なのかもしれない。

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 『人口減少社会という希望』の著書がある広井良典・千葉大学教授(公共政策)は「成長や拡大を絶対的に良いものととらえ、経済の縮小につながるという理由で、人口減少を単純に悪いものととらえる発想から抜け出すべき」と指摘する。

 古来、農耕社会だった日本は耕作という「産業」を通じて、人と人とが結びつき、共同体を形成してきた。それが戦後の高度経済成長とともに、産業構造が大きく変わり、土地と密接に結びついてきたコミュニティーも解体が進んだ。そして今、かつてのような右肩上がりの成長や拡大は望めない時代を迎え、人々は不安に行き惑う。

 広井教授は「経済成長を前提とせず、個人が幸福を実感できる『豊かさの再定義』が必要」と提唱する。それぞれの地域が持つ個性や風土、文化的特性に目を向けた「多様性」こそが、これからの幸福の指標になるという。

 東日本大震災の被災地では、被災から1年もたたないうちに地域の伝統行事だった獅子舞や神楽が復活し、希望を失いつつあった住民たちを再びつなぐ「よりどころ」になったという。これもまた、地域が持つ多様な力である。

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 佐賀市大和町。昨秋、与止日女(よどひめ)神社で開かれた50年に1度の大祭に合わせ、地元の小中学生約780人がタイムカプセルを埋めた。未来の自分に宛てたメッセージを開封するのは50年後の次の大祭だ。

 創建から1450年を迎えた同神社は、大祭ごとに社殿を改修し、歴史をつないできた。そのたびに力を合わせることが、住民同士を結び「ともに生きる」意識を育んできた。

 今回も5年がかりで準備を進め、改修費用を集めたものの、住民の意識が多様化し、将来さらに人口減少が進めば、こうした地域の伝統を維持していけるかどうかわからない。タイムカプセルは半世紀後、大人になった彼らを再びつなぐ「よりどころ」になるだろう。

 大祭当日、境内は人であふれ、地域は久しぶりの一体感を味わった。「次の大祭も、立派にやってくれるんじゃないか」。住民たちは、次の世代に希望を託した。

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 「経済成長」という一つの目標に向かってひた走る時代が終わり、今、地域それぞれが「豊かさ」の再定義を求められている。

 それは、固有の伝統文化であったり、人と人、人と自然のつながりから生まれる「安心感」であったり、モノサシは一つでない。私たちが置き去りにしてきたものを見つめ直し、そこから新しい魅力を創造していければ、いつまでも「ここで生きる」ことはできる。

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〒840-8585 佐賀市天神3丁目2番23号、ファクス0952(29)5760、メールhoudou@saga-s.co.jp

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