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最終章 ここで生きる[9] よそ者の力(下)

2015年03月30日 09時54分

有機栽培の野菜を使ったビザを提供する移住者の塩田さん。町外からの客も多く訪れる=徳島県神山町
有機栽培の野菜を使ったビザを提供する移住者の塩田さん。町外からの客も多く訪れる=徳島県神山町
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■新たな価値で食の循環

 商店街のメーン通りにある洋食店。正午にオープンすると、サテライトオフィスを置くIT企業の関係者や町の視察者、地元住民らが集まってきた。「人材」を誘致する移住施策に取り組む徳島県神山町。会話が弾み“異業種交流”が始まることも少なくない。

 経営者の齋藤郁子さん(43)は東京からの移住者。「たまにお遍路さんが来ると、IT関係の人が『私もやりたい』と話しかけたりする。相席にして会話を促すこともありますよ」。自然の魅力に引かれ2013年12月、店を始めた。

 「俺は一生ただ飯だな」。林業関係の住民は、そんな冗談交じりに薪の束を店に持ち込んできた。この店では、お金以外に薪を“通貨”にして食事を提供する。「店にとっては、暖をとったり火をおこしたりするための必需品」。山あいの地域ならではの「資源」を介して、住民と移住者が互いに感謝し合える関係が生まれている。

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 「人口は減っても、クリエーティブな若者たちの移住で活気はある」。神山町の移住施策を担うNPO法人グリーンバレー理事長の大南信也さん(61)はそう実感する。「移住者がもたらしてくれた新しい価値観のつながりが、まちに次の可能性をもたらし始めている」

 齋藤さんの店では、有機栽培の野菜やコーヒー豆、天然酵母のパンを使った料理を提供する。いずれも移住者がつくった食材で、それまで町内になかった食の循環が生まれている。

 これに目をつけた塩田ルカさん(34)は14年2月、大阪から移住し有機野菜を使ったピザ屋を始めた。食材の流通関係の仕事をしていた塩田さんは「都市には人はいるが、それだけでは新規で5年間続く店は少ない。個性があれば、山奥でも繁盛している店を何軒も見てきた」という。

 齋藤さんや塩田さんの店には、車で45分かかる徳島市からの客や旅行者も多い。「それまで自然を楽しむ人だけだったのが、デートなどで若い人が町に来るようになった」と大南さん。移住だけでなく、交流人口も増え始めた。

 食の循環は、町の基幹産業である農業すら変える可能性を秘める。「地元の野菜も有機栽培して店で使ってもらえば、お金も町内でまわるようになり地域の自立につながる」。大南さんはこの流れを「移住施策が目指す本丸」と強調した。

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 神山町と佐賀県は、地理的条件も環境も違う。ただ、県内で移住施策に力を注ぐ杵島郡江北町にはかすかな光が見え始めている。13年7月、上小田地区に手作りパン屋がオープン。東京などで修業を積み、開業場所を探していた白石町出身の稲富ななこさん(33)の思いを、空き店舗再生を進めていた町が支援した。

 「少し昔ながらの町で店を出したかった。せっかくなら地域に愛される店にしたい」。無添加で地元素材にこだわるパンには町外からもファンが訪れる。

 東京の一極集中から地方へ-人口減少時代に、移住施策は地域をつくる一つの柱になる。「田園回帰」の受け皿づくりは、緒に就いたばかりだ。

=メモ=

 江北町上小田地区 人口は2044人(2013年3月末現在)。高齢化率は35・9%と町内の地区で一番高い。長崎街道の宿場町だった小田宿があり、昭和初期には杵島炭鉱でにぎわいを見せていた。

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