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最終章 ここで生きる[7] よそ者の力(上)

2015年03月28日 08時50分

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東京から家族4人で移住した山村さん夫妻。農村集落の空き家で暮らしている=岡山県美咲町
東京から家族4人で移住した山村さん夫妻。農村集落の空き家で暮らしている=岡山県美咲町

■「田園回帰」流れ着実に

 会場は立ち見が出るほど盛況だった。東京で地方への移住情報を発信している「ふるさと回帰支援センター」で今年1月、杵島郡江北町が初めてセミナーを開いた。「ここまで田舎暮らしに関心が高いとは」。町総務企画課の坂元弘睦さん(45)は手応えを感じた。

 同センターには子育て世代を中心に移住の相談が増えており、「田舎暮らしといえば、以前は定年後のセカンドライフというとらえ方だったのが、今では若い世代の地方志向が高まっている」という。

 ただ、佐賀県内で移住施策に本腰を入れる自治体は少ない。「企業を誘致して住民を増やす施策が基本で、政策的に移住者を呼び込む考え方はあまりなかった」(県中部の自治体OB)のが実情だ。

 このところの円安で、大手製造業が生産拠点を海外から国内に戻す動きがあるとはいえ、なお低成長が続く経済情勢下では、新たな企業誘致は容易ではない。住民基本台帳に基づく佐賀県内の人口移動は2013年で1743人の転出超過。このうち半数近くが福岡都市圏への流出だ。こうした地の利の良さが、人材を「受け入れる」より「供給する」側に回ってきた要因でもある。

     *

 同センターが毎年発表している移住希望地のランキングで12年以降、トップ3に入っているのが岡山県だ。ウェブサイトや雑誌とのタイアップ企画を組むなどして情報発信するほか、東京と大阪で年6回、移住希望者向けのセミナーを開催。東京と大阪の出先機関に専用の相談窓口を設け、同センターにも専属の相談員を置くなど、県を挙げて移住施策に取り組む。

 同県中部の美咲町。山村彩さん(32)は昨年11月、夫と保育園児2人の4人家族で東京から移住してきた。

 東日本大震災をきっかけに、都内でちょっとした揺れを感じるたび恐怖を感じるようになった。慌ただしい人混みの中で、さまざまなトラブルや事件が起こる日常。「子どもが安心して育てられるか不安になった」。都内で開かれた岡山県のセミナーに参加。ブースを設けていた美咲町に足を止めた。「暖かく災害が少ない環境が魅力的だった」

 美咲町は中学生までの医療費を無料にするほか、3人目の子どもが中学生を卒業するまでの水道基本料を無料にするなど、子育てや生活支援策を充実させる。「岡山人気」を取り込むため、隣接自治体と連携したPRツアーや、移住体験ができる住宅も準備しており、「情報発信と支援策がセットで整っている自治体は、全国でもあまりない」と山村さん。

 移り住んだ集落は若いファミリーを歓迎してくれた。ちょっとした野菜のおすそ分けにも山村さんは感激した。「お金がなくても困らない生活なんて、東京では考えられない」。岡山市中心部まで車で1時間ほど。ゆったりとした、この安心感のある生活環境で、通勤する暮らしも悪くない。生き方をリセットする場として、あらためて地方の魅力を実感している。

■メモ

岡山県美咲町 2005年3月、周辺の3町が合併して誕生。人口は1万5347人で高齢化率は37・5%。総面積の7割を山林が占め、日本の棚田百選に選ばれた農村集落もある。卵かけご飯でまちづくりを進める。

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