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=講演採録= 九州大学法学部(憲法学) 南野森教授

2014年08月31日 11時37分

集団的自衛権の行使を容認する閣議決定について「今後の国会審議を監視することが重要」と話した九州大学の南野森教授=8月2日、佐賀市のメートプラザ佐賀
集団的自衛権の行使を容認する閣議決定について「今後の国会審議を監視することが重要」と話した九州大学の南野森教授=8月2日、佐賀市のメートプラザ佐賀

■集団的自衛権と解釈改憲-憲法学の観点から

■「明白な危険」誰が判断

■主観性の危うさぬぐえず 

 安倍政権が7月1日に閣議決定した集団的自衛権の行使容認。戦後の安全保障政策の大転換につながる憲法の解釈変更をどう読み解くのか。アイドルグループAKB48のメンバーに講義をする形で編集した話題の憲法入門書『憲法主義』の著者で、九州大法学部の南野森(しげる)教授の講演を採録して考える。

*****

 憲法学者として、アイドルと一緒に憲法の本を書くことへの逡巡(しゅんじゅん)はあった。迷った揚げ句、これは必要な仕事ではないかと考えるに至った。憲法をめぐる議論が盛んだが、基礎的な理解が、政治家にも国民にも十分に広まっていないと思ったからだ。

 2012年4月、当時野党だった自民党が憲法改正草案を発表した。政党が憲法改正を主張することに問題はない。しかし、草案には家族間で助け合う義務や、国を愛する義務などが盛り込まれていた。これでは、憲法を守らなければならないのは「国民」だと誤解してしまう。

 憲法を守らなければならないのは「国家権力」だ。身近なところでは警察。内閣総理大臣や国会議員、裁判官や役人などが相当する。憲法を考える上では、こうした根本を踏まえなければならない。

 12年12月に衆議院が解散し、政権が交代した。自民党の安倍晋三首相は憲法改正を目指すが、個別の内容は政党間で容易に合意ができない。そこで、改正手続きを定めた96条の改正を主張したが批判を受け、いったんは引っ込めた。その後、参院選でも自民党が圧勝し、安倍政権は「本丸」の9条に目を向けたのだと思う。そこで出てきたのが集団的自衛権になる。

 安倍首相は集団的自衛権について、解釈を変更する閣議決定で可能と主張し始めた。憲法改正ではないため、国会での発議もせず、国民投票にもかけないことになる。これは中身の議論以前に、やり方として許されるのかと思った。

 憲法の根幹とも言える条文の解釈変更が簡単に許されれば、ほかの条文の解釈も危うくなる。例えば徴兵制は18条の「意に反する苦役」にあたり、政府は一貫してできないとしているが、解釈次第で可能になりかねない。

 集団的自衛権について政府は、自衛隊が創設された1950年代から、一貫して「認められない」と言い続けてきた。戦力の不保持を定めた憲法9条2項があるからだ。

 素直に読むと、自衛隊も憲法違反。しかし、政府はこれを認めるわけにはいかない。その理屈が、日本が攻撃を受けたときに限り、それに反撃するための必要最小限度の武力を持つことは可能という考え方で、9条が禁止する戦力にはあたらないという解釈だ。

 政府としては苦しい弁明だが、その論理的な帰結として、自国が攻撃を受けていないのにもかかわらず、米国や韓国が攻撃を受けた場合、集団的自衛権を行使して反撃することは、必要最小限度の武力を超えているとしてきた。

 今回の閣議決定については、安倍首相が憲法解釈を180度転換したと思っている人も多いだろうが、果たして本当にそうだろうか。結論から言えば、いろいろな解釈の余地があると考えている。

 日本が武力行使をするための「新3要件」=別表=では、第1要件で、日本に対する武力攻撃が発生していなくても、密接な関係にある他国が武力攻撃を受けた場合に、「明白な危険」などが認定されれば武力行使ができるとしている。

 ただ第2要件では、単に他国による武力攻撃を排除するためだけでなく、あくまでも、日本を守るために他に適当な手段がないということが、武力行使のためには必要とされている。

 この要件を厳格に読むなら、閣議決定前とほぼ同じと解釈する余地があり、一定の歯止めがかかっていると言えなくもない。

 ただ、一番の問題は、他国への武力攻撃をきっかけとして、日本への「明白な危険」などを、誰が判断するのかということ。結局は、閣議決定そのものに解釈の幅がある中で、そこの主観性の危うさはぬぐい去りようがないように思う。

 これから日本が、平和憲法や9条を変質させていく道を歩むかどうかは、今となってはひとえに関連法案を審議するこれからの国会の立法作業にかかっている。どのような法案を内閣が出し、これに対して国会議員がどういう論戦を展開するのか。それをわれわれ国民がいかに監視できるかが、問われてくる。(8月2日、佐賀市での講演から)

■みなみの・しげる 東京大学法学部卒。東京大学大学院修士課程・博士課程、パリ第十大学大学院博士課程で憲法学を専攻。主に憲法学の原理論などを研究している。

【武力行使の新3要件】

 (1)わが国に対する武力攻撃が発生したこと、またはわが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること

 (2)これを排除し、わが国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと

 (3)必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと

【閣議決定前の3要件】

 (1)わが国に対する急迫不正の侵害があること

 (2)この場合にこれを排除するためにほかの適当な手段がないこと

 (3)必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと

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