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寄稿 ASKA容疑者の薬物問題

2014年05月29日 16時07分

ASKA容疑者が勾留されている東京湾岸署(左上)と自宅捜索の様子(左下)、送検されるASKA容疑者(右)のコラージュ
ASKA容疑者が勾留されている東京湾岸署(左上)と自宅捜索の様子(左下)、送検されるASKA容疑者(右)のコラージュ

 覚せい剤取締法違反の疑いで、人気デュオ「CHAGE and ASKA」のASKA(本名・宮崎重明)容疑者が逮捕され、さまざまなメディアが取り上げている。社会的に反響が大きい芸能人の薬物使用や、一連の報道をどう見るべきなのか、薬物依存症からの回復を支援する民間施設「佐賀DARC(ダルク)」代表の松尾周さん(45)に寄稿してもらった。

■依存症の視点報じているか

■社会的に抹殺される怖さ

 覚せい剤取締法違反で逮捕されたASKAさんの報道が連日、ワイドショーや新聞、週刊誌などで繰り返されています。1年ほど前から週刊誌が薬物問題を報じていたこともあり、「あぁ、やっぱり逮捕されるまでやめることができなかったか。この人も病気なのだな」と感じました。

 薬物依存症リハビリ施設・佐賀DARC(ダルク)を運営し、日ごろからここや精神科病院などで、多くの当事者と関わっています。「依存症」という言葉を毎日、耳にする私からすると、やつれて、疲れ果てたASKAさんの姿は、ダルクにたどり着くほかの依存症患者と変わりません。異なるのは、彼が有名なアーティストということで、社会的に大きな影響を及ぼしてしまうことでしょう。

 ワイドショーなどの報道を見ていると、「依存症」と言う言葉は、ほとんど出てくることはありません。一緒に逮捕された女性の素性やASKAさんの異常な行動、CDの販売停止…。快楽を求めた自己中心的な行いや、注目を集めそうなことに焦点を絞った報道のあり方に違和感があります。「この人これで終わりだな」と、社会的に抹殺されていく怖さを感じます。

 薬物使用が犯罪であることは紛れもない事実ですが、依存症に至る背景が語られることはほとんどありません。普段の裁判の中でも、起訴状の朗読や紋切り型の判決だけで、依存症の言葉が出てくることはまれです。

 依存症になる人は「意思が弱い」とよく言われます。最初の1回を断る強さも、誰かに助けを求める勇気もなく、些細(ささい)な悩みや寂しさを過敏に感じてしまう弱さや脆(もろ)さがあるのは、確かにそうなのかもしれません。そして、他の病気と同じように、依存症の病状や生活が悪化するにつれ、自分の力では回復ができないことに絶望すると、余計に弱くなっていくような気がします。

 薬物に限らず、アルコールやギャンブルなどを含め、依存症は「否認の病気」だと言われています。「自分は依存者ではない。まだ自分の力で止められるはずだ」と、どん底に陥るまで助けを求められない。そのような状況が生まれるのも、薬物問題を犯罪の側面からだけで捉える見方や、社会の中に薬物依存症の存在を認めない雰囲気があるからではないでしょうか。その家族でさえも薬物問題を「恥」と捉え、社会から孤立しています。

 拘置所のアクリル板越しに面会する、薬物使用で検挙された人たちが一様に、涙を流しながら「逮捕されることは分かっていた。やめたくても、どうしようもなかった」と口にするたびに、もっと早く出会えていたら、早く治療の方向へ向かえていれば-と思わずにいられません。

 アルコール依存症に関しては、アルコール健康障害対策基本法が昨年、国会で成立し、当事者や家族への支援を国が担うことになりました。欧米では薬物依存症の人たちを、感染症などの健康被害から守りながら治療につないでいく政策(ハーム・リダクション)を取り入れている国が多くあります。日本の現状は、脱法ドラッグの横行や再犯率の増加もあり、治療の方向へと少しずつ変化してはいるものの、いまだに対策が遅れているように感じます。

 松尾 周 まつお・ちかし 薬物依存症リハビリ施設「佐賀DARC」代表。依存症患者の回復を支援する活動に加え、学校での講演活動など若者の薬物乱用防止にも取り組む。佐賀市。

■佐賀県内の薬物犯罪 覚せい剤関連9割

 佐賀県警が昨年摘発した覚せい剤事犯は82件69人、大麻事犯の摘発は13件8人で、覚せい剤が全薬物犯罪の9割近くを占めた。覚せい剤の再犯率は60.9%で、依然として高い常習性をうかがわせている。

 覚せい剤事犯の摘発のうち暴力団員は40人で全体の58%を占め、過去5年では最も高い割合になった。年齢別では10代が4人摘発され、こちらも過去5年で最も高い比率になっている。

 県内でも薬物依存症へのケアは受けることができる。小城市小城町の県精神保健福祉センター=電話0952(73)5060=では、精神科医や保健師による相談に加え、依存症に悩んでいる人たちの家族らが集う情報交換会も月1回のペースで開かれている。神埼郡吉野ケ里町の肥前精神医療センター=同0952(52)3231=は専門的な治療に取り組み、佐賀市の佐賀ダルク=同0952(28)0121=でも相談を受けている。


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