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=講演採録=川崎医療福祉大特任教授・佐々木正美さん

2014年09月23日 15時32分

「人を信じる力を育てて」と話した佐々木正美さん=佐賀市のアバンセ
「人を信じる力を育てて」と話した佐々木正美さん=佐賀市のアバンセ

 日本の発達障害研究の草分け的存在で、川崎医療福祉大特任教授の佐々木正美さんの講演会が佐賀市で開かれた。佐々木さんは、発達障害の子どもたちの特性を理解し、寄り添うことの大切さを強調。その上で「発達障害児には、どんなに苦労してもできないことがある。『得意な芽』を見つけ、伸ばしてほしい」と語りかけた。講演要旨を紹介する。

■「多様な発達の子どもたち」

 乳児期はどのように育つのがいいのか。私が尊敬している発達心理学者エルク・エリクソンは、おびただしい人間の生き方を多角的に観察し、人格的なものが育つ手順に触れている。

 自分を信じる力、実はそれは「人を信じる力」だ。人を信じることができるようになって、自分を信じることができる。一部の例外を除き、母親を信じることから始まる。お母さんを信じることによって、自分を信じることができる。

 乳児期を終え、幼児期に入ると、自分の感情をコントロールする「自律性」が、より豊かに育っていく。

 大切なことを教える「しつけ」は、ゆっくり繰り返し教え、待っていてあげることが大切。子どもを育てるのが上手な人は「待つ力がある人」だ。単に教えるとか、言うとか、それは誰にでもできる。「教えて待つ」がキーワードだ。

 親でも教育者でも、自分の衝動を自制する力がない人ほど厳しく頑固で、怖い。早くできるようにさせようとする。そうすると子どもの中に、本当の意味での自律性は育たない。第一、教えている人の自律性が弱い。つまり自分が我慢できないから、早くそうさせようとする。

 人の人生の早い時期に立ち合う人たちに最も大切なのは「人を信じる力」を育てることだ。「あなたは私を信じられますか」と自問自答しながら育ててほしい。それが、自分を信じて生きていく力になる。「まだできないの」と決して言わず、できるまで待ってあげてほしい。それが衝動を自制できる子どもを育てることにつながる。

 先だって、長崎県佐世保市で不幸な高校生の殺人事件があった。自分で自分の衝動を律することができない最も不幸な事例だ。悪いということが分かっていながら、自分を律することができない。

 衝動は誰にでもある。自制できるかどうか。これはすべて、人を信じるところから始まる。子どもたちの中に順序よく、育ててあげてほしい。

     ◆    ◆ 

 発達障害とされる子どもは、発達が単純に遅れているのではない。遅れている部分、できない部分もあるが、みんな以上にできる部分もある。発達が凸凹して、バランスよく備わっていない。「自分の殻に閉じこもっている」「しつけがちゃんとされていなくてわがまま」が本質ではない。

 目で見て理解すること、見たままを記憶することは得意だ。だからトランプの神経衰弱のほか、まだ習ってもいない文字を書けるようになったり、読めるようになったりする。逆に、見えないものに想像力を働かせることが苦手で、例えば鬼の気持ちを応用して遊ぶ鬼ごっこや隠れんぼはできない。

 関心や興味が、狭いところに強く向かい、一度に一つのことしか関心を向けることができない。複数のことを同時に認識したり、実行したりすることが、程度はまちまちだが、苦手だ。

 多くの人は何か行動しようとするとき、周囲にいる人や関係がある人が、喜ぶか、迷惑と感じるか、といったことを考える。そういうところがとても弱く、臨機応変に活動・行動することができない。「暗黙の了解」ということはほとんど通じず、話すことは上手でも、相手の話を聞くことは下手だ。比喩(ひゆ)や冗談は通じにくい、もしくは通じない。

 学校の先生たちは何でも努力すればできるようになると思っているかもしれないが、それは生まれつき駆けっこが遅い子どもに「何メートルを何秒以内で走れ」と言っているようなもの。努力しなくてもできることがある一方、どんなに努力してもできるようにならないところがある。発達障害の子どもは駆けっこほど単純ではないが、そうした個人差を分かってほしい。

 発達障害の子どもにとって、「苦手なことがちゃんとできるように」というのは大変なことで、過酷なことだ。できることをもっとできるように努力すればよく、得意な芽を見つけて伸ばすことに時間を割いてほしい。

 また、できることを社会的に発揮するのが下手な子どももいる。だから、優れているところを社会的に発揮できるように導いてくれる人をその子たちは待っている。

 できることが、もっとよくできるように-。50年近く当事者や家族にかかわる仕事をして、また、特性のある子どもを育ててきた経験から、そうした方向は間違っていない、と言える。そうすることで、わがままになることはないし、好きなことばかりして嫌なことをしない子になることもない。子どもたちは素直で真面目だから。

     ◆    ◆ 

 発達障害の子どもたちが一番つらいのは、「無理解なのに熱心な人」だ。熱心な無理解者が私を一番苦しめる、と彼らは言う。その子たちのことがよく分からなければ、担当から外れた方がいい。もしくは、外れなくてもいいが、無理をさせないでほしい。

 熱心に教育してくれるよりも「熱心に私を理解してほしい」と思っている。子どもたちが自分のことを本当に分かってくれている人に出会う機会は少ない。

 ほとんどのことは周りの大人が決めているだろうが、例えば特別支援学級に行きたいか通常学級に行きたいか、さらには行くか行かないかも含めて考えを聞いてみてほしい。

 「この子はどう考えるか」と、心の耳を開いてほしい。「お父さん(先生)は分かってくれようとしている」と思わせるように聞くことが大事。彼らは普通の子どもたちよりはるかに自分の思いを話せず、我慢して生きている。よほど上手に聞かないと、この子たちは言いづらい。

 また就学前から、「いつかこの子は働く」ということを念頭に置いていてほしい。一般就労や福祉就労などいろいろな場所があるが、「職場で生き生きできること」が本当に幸福なことだ。日々働くことが人間にとって幸福の源泉。働くことと余暇は表裏の関係にあり、生き生き余暇を楽しむことが、充実して働くことにもつながっていく。自分には何ができるか。これを考え実感し、「大きくなったらこうなりたい」。そう思える日々は幸せだ。どうぞそうなるよう、ゆっくり、お育ていただきたい。

■ズーム

 発達障害 対人関係がうまく築けず、特定の物事にこだわりがある自閉症やアスペルガー症候群(自閉スペクトラム症)、読み書きや計算が極端に苦手な学習障害(学習症、LD)などの総称。周囲から理解されにくく、子どもだけでなく、大人になって就職してから本人や周囲が気付くことも少なくない。

 佐賀県教育委員会によると、2013年度、県内小学生の4.41%に発達障害の特性、傾向があり、調査開始時の05年度の2.17%から増えている。県教委は「絶対数の増加ではなく、子どもの学びや生活を支える大人が、発達障害の特性を知る機会が増えたことで顕在化してきている」と分析する。

■略歴

 ささき・まさみ 1935年生まれ、新潟大学医学部卒。発達障害の様態の一つである自閉症がある人たちのための支援プログラム「TEACCH(ティーチ)」を米国から日本に紹介した。主な著書に『こどもへのまなざし』(福音館)など。

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