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電通事件正式裁判

働き方改革への教訓に

2017年07月14日 05時00分

 広告大手電通の違法残業事件で、労働基準法違反罪で法人としての電通を略式起訴した検察の処分について東京簡裁は「不相当」と判断し、正式裁判を開くことを決めた。非公開の書面審理による略式手続きとは異なり、電通幹部らが公開の法廷で、悲惨な過労自殺につながった違法残業の認識や労務管理の実態をただされることになる。

 簡裁は理由を明らかにしていないが、本社だけでも6千人の社員がいる巨大企業で起きた新入社員の過労自殺の経緯や背景は複雑で、書面のみでは事実関係を十分に解明できないと判断したようだ。さらに事件をきっかけに長時間労働への社会の関心が高まり、働き方改革を加速させたことも重くみたとみられる。

 違法残業事件で企業が略式起訴されると、略式手続きを経て罰金刑を科すのが通例になっている。ただ多くの場合、誰がどのように違法残業を指示し、どこまで違法性を認識していたかなど過労自殺や過労死に至る詳しい経緯は明らかにならない。悲劇が繰り返される中、電通事件で正式裁判に踏み出した今回の簡裁決定の意義は大きい。

 電通側は違法残業の事実を認めているが、正式裁判では、長時間労働を当たり前のように強いる日本企業の体質をより深く掘り下げることが求められる。そこから教訓をきちんとくみ取り、働き方改革に生かしたい。

 2015年4月に電通に入社した高橋まつりさんは、その年12月に都内の社宅から飛び降り、24歳で亡くなった。労働基準監督署は翌年9月に「うつ病発症前1カ月の残業は約105時間」とし、長時間労働が自殺の原因と認定。検察当局は今月、労働基準法違反の罪で電通を略式起訴する一方、高橋さんの上司ら3人を起訴猶予とした。

 過去に長時間労働で摘発された靴販売店「エービーシー・マート」や量販店「ドン・キホーテ」などのケースでも法人が略式起訴され、幹部らは起訴猶予となっており今回、検察はそうした前例を踏襲したのだろう。

 一方、電通事件をきっかけに過重労働に関心が高まる中、労働基準法違反で略式起訴されたファミリーレストラン「和食さと」の運営会社など2社について今年3月、大阪簡裁は相次ぎ「略式不相当」と判断した。東京簡裁の決定はこの流れに沿ったともいえよう。

 電通事件が正式裁判に舞台を移しても、検察側は略式起訴した際と同じ罰金刑を求めるとみられる。結論が変わらないなら、わざわざ公判を開く必要はないという考え方もあるかもしれない。

 しかし長時間労働だけが問題なのではない。高橋さんは「休日返上で作った資料をボロくそに言われた もう体も心もズタズタだ」といった悲痛な訴えを会員制交流サイト(SNS)などに残していた。中には「君の残業時間は会社にとっては無駄」と言われたなどと上司のパワハラをうかがわせる記述もあった。

 違法残業の背景にある企業体質にまで踏み込んだ実態解明が求められており、正式裁判では被告人質問などを通じ、できるだけ詳しく明らかになるよう期待したい。政府が働き方改革の旗を振る中、企業への視線は格段に厳しくなっており、各企業はその規模にかかわりなく、社員の健康や安全が重要な経営課題であることを肝に銘じ、改革に取り組む必要がある。(堤秀司)

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