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「共謀罪」が閣議決定

人権侵害の恐れないか

2017年03月22日 05時00分

 過去に廃案となった「共謀罪」を取り入れた組織犯罪処罰法改正案が閣議決定され、今国会に提出された。政府は東京五輪を控えてのテロ対策を強調するが、法が恣意(しい)的に運用されれば、国民のあらゆる行為に捜査の目が向けられる恐れがある。基本的人権を侵害することはないのか、慎重な法案審議が求められる。

 政府は共謀罪ではなく、「テロ等準備罪」と呼ぶ。菅義偉官房長官は閣議決定後の会見で「かつての共謀罪と明らかに別物。3年後の五輪に向け、テロを含む組織犯罪を未然に防ぐために万全の態勢を整えたい」と理解を求めた。

 法案はテロリストなどの犯罪集団が重大犯罪を計画し、そのうちの一人が現場の下見や、資金や物品の手配など準備行為に着手した場合、計画に関わった全員を逮捕できるとしたものだ。

 過去に3度廃案になった経緯を考えれば、政府も「国際社会と連携したテロ対策」と国民の理解を得たいだろう。ただ、そのために、犯罪行為の実行を構成要件とする刑法の大原則を変えるやり方には釈然としないものがある。

 対象となる罪は277に及ぶ。テロ対策と言いつつ、その犯罪を見ると「無資格モーターボート競走」「商標権侵害」「株式の超過発行」などテロとの関係性を感じにくいものが多い。国民を守るには犯罪の準備段階から取り締まることが必要なケースもあるが、殺人やハイジャックなどの凶悪犯罪には予備罪が適用できる。現行法でも対応できそうなのに、新たな「準備罪」は必要なのだろうか。

 法案は犯罪集団に限定し、市民団体や労働組合などが捜査を受けることはないとする。しかし、テロリスト集団が構成員の名簿をつくるはずもない。捜査機関はテロ行為への「協力者」を捜すため、捜査の範囲を広げるだろうし、無関係の国民が内偵されることもあるだろう。また、市民団体が捜査機関の判断で「犯罪集団」となる懸念はぬぐえていない。

 犯罪の構成要件に「現場の下見」がある。今はあらゆるところに監視カメラがあり、携帯電話の電源が入っていれば、位置情報も簡単に把握できる。偶然、犯行現場の予定地近くを通ることもあるだろう。それを「下見」と見なされる間違いは起きないのか。

 テレビの取材で女性が「まだ起きていない犯罪に、自分が関与していないことをどう証明できるのか」と話したが、詳細に検証しないと不安が尽きない法案だ。

 国会は今、政治家の関与が疑われている森友学園への国有地払い下げ問題で揺れている。自民党は全容を知る官僚の国会招致を拒み続ける。政官癒着の疑惑解明を棚上げして、権力による監視で国民の萎縮を招く恐れがある「共謀罪」の審議をすることは許されるのか。混乱に乗じて法案を成立させようという意図も感じられる。

 テロ対策を大義名分にした警察権の強化が進められている。戦前や戦中は警察権の乱用で、政治的な不満を力で抑えた。その反省から、現行憲法や刑法が逮捕権の行使に慎重であることを再び思い起こしたい。

 基本的人権は一度後退すれば、元に戻すのは簡単ではない。後悔をしないためにも、法案審議は時間にとらわれず、慎重に進めるべきだ。(日高勉)

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