天草を訪ねたのは6年前の秋。島全体がキリシタン文化の濃い地である。天草下島の西海岸を車で南下すると、ひなびた漁村の一角に崎津(さきつ)教会がひっそりとあった。近くには、亡き人を納めた独特の形の墓が急斜面に点在する◆禁教時代、迫害と殉教に遭いながらも、多くのキリシタンがひそかに信仰を守った土地だ。羊角湾(ようかくわん)に面するところに教会は建つ。尖塔が空を望み、素朴だが力強いたたずまいと、耐え忍び信仰の心を深くとどめた民衆の姿が重なる。ここは、かつて踏み絵が行われた庄屋跡。今では猫がのんびり歩いていたりして、ゆったりとした時が流れている。住民たちの笑顔は、そんな厳しい過去を感じさせない◆この崎津集落を含めた「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」(長崎、熊本)が世界文化遺産の推薦候補に改めて選ばれた。まさかの推薦取り下げから5カ月。日本ならではの禁教期の潜伏の歴史に焦点を当て直し、再びの挑戦である◆数多くの外国人宣教師だけでなく、同じ日本人の信徒をも迫害の末に殺(あや)めたという悲しい歴史がある。そんな力による弾圧では、神を信じ、よりどころとした魂を人々の心から奪うことはできなかった◆この切なく苦しい来歴を背負うまち。足を運び空気に触れてみると、今も確かに生活の中に静かな祈りが息づいていると感じる。(章)

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