■働き高める研究進む

 昔々、秦の始皇帝は徐福に「不老長寿」の薬の発見を命じました。これがもし現代であったら、不老長寿の遺伝子を探させたということになるでしょうか。

 1999年、その候補となる遺伝子が発見されました。Sirtと名付けられたその遺伝子は、線虫という単純な生物モデルでは、その遺伝子の働きを抑えると短命になり、働きを高めると寿命が長くなることが分かりました。その後、Sirtの仲間の遺伝子が次々と発見され、これで不老長寿の夢が実現できると思う人もいたようです。

 しかしながら、ヒトの体はそれほど単純ではありませんでした。Sirt遺伝子は、確かに血管の老化や心筋梗塞、あるいは糖尿病のような慢性疾患に重要な役割を果たしているとされています。しかし、Sirtは多くの遺伝子と協調して働いており、しかもその働きは食生活や運動、さらには睡眠のパターンなど環境に影響を受けることも分かってきています。

 言い換えれば、仙人のような生活をすれば、しかも心穏やかな楽しい生活を送ればSirtも活性化し、長寿が全うできることになるかもしれません。逆に暴飲暴食や喫煙、ストレスの強い環境ではせっかくのSirtの働きもかき消されてしまう可能性もあります。

 とはいえ、現在Sirtの働きを高めたり逆に抑えたりする薬の開発が世界中で行われています。もちろん、不老長寿が実現できることが理想かもしれませんが、それは無理でもSirtの働きを高めることによって、動脈硬化やそれによってもたらされる心筋梗塞や脳卒中を予防することになれば、「元気で長生き」の世界が実現できるかもしれません。

 Sirt遺伝子が発見されもうすぐ20年が経過しようとしています。不老不死の薬を待つよりも、バランスよく食べ、楽しく過ごし、心地よい汗を流すことが目の前の不老長寿の近道かもしれません。

 (佐賀大医学部附属病院 検査部長・末岡榮三朗)

このエントリーをはてなブックマークに追加