ビゼンクラゲを水揚げする漁業者ら。近年は有明海で大量発生し、魚や貝に代わる貴重な収入源になっている=2016年8月、佐賀県太良町

■「弱った海を駄目にした」

 有明海の幸など地場産品の加工品開発を目指した藤津郡太良町の町特産品振興施設「しおまねき」。町が約2億円を投じた施設だったが、昨年夏、オープンから2年で閉店した。同町大浦の漁業者で、元従業員の平方宣清さん(64)は「加工しようにも、材料となる魚もエビも何も水揚げがない」。不漁が影を落としていた。

 大浦の漁師が競って採っていた高級二枚貝タイラギも、5季連続の休漁。一方、「厄介者」と敬遠されていたビゼンクラゲがこの数年、大量発生。中国など海外に高値で売れるため、漁が活発になっている。施設でできたのは、そのクラゲを使ったかす漬けなどわずか5品ほどだった。

 国営諫早湾干拓事業で有明海の漁場環境が悪化したとして、平方さんら漁業者が国に堤防排水門の常時開放などを求めた訴訟の福岡高裁判決。堤防閉め切りと漁業被害との因果関係を、諫早湾内とその周辺において高い確率があるとし、国に5年間にわたる開門調査を命じた。国が漁業被害を認めない中、画期的な内容だった。

 閉め切りの影響は湾内にとどまらない-。そう実感する漁業者は少なくない。平方さんは「閉め切り直後に潮の速さが明らかに遅くなった。流し網の流れ方が変わり、潜水漁では海底で楽に動けるようになった」と話す。

 鹿島市沖でノリ養殖をしていた石橋達也さん(75)ヤス子さん(69)夫妻も「以前と違い、潮が大浦から上がってくるようになった」。鹿島沖など県西南部海域では冷凍ノリ網を張る冬季に赤潮が発生し、色落ち被害に悩まされている。

 環境省に設置された「有明海・八代海等総合調査評価委員会」が今年3月にまとめた報告によると、有明海の魚類の漁獲量は1万3千トン台だった1987年をピークに減少傾向で、99年に6千トンを割り込んでいる。貝類は約10万トンだった80年ごろから落ち込み、近年は2万トンに満たない。

 漁業資源の低下をもたらす要因には、海底付近で貝などが酸欠死する「貧酸素水塊」や底質の変化、生息場所の減少などがある。貧酸素水塊は主に有明海奥部や諫早湾で夏季に発生し、2000年代以降は頻発化している。

 環境変化の背景には諫早湾干拓事業をはじめ、埋め立てや干拓、筑後大堰(ぜき)の建設、筑後川の砂利採取などが指摘される。潮流の変化は月の軌道により18・6年周期で干満の差が変化することが影響しているともされる。

 開門調査に反対する干拓地の営農関係者の中には、97年の堤防閉め切り以前から不漁が始まっているとし「諫干をスケープゴートにしている。国が実施主体だから言いやすいのでは」との声もある。

 「複合的な要因は確かにある」と平方さん。その上で開門義務に従わない国の姿勢にくぎを刺す。「弱った海を最終的に駄目にしたのが諫干。国はいろんな再生事業をしてきたが、やっていないのは開門だけだ」

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