天皇陛下の退位を実現する特例法が参院本会議で可決、成立した。昨年8月に陛下がビデオメッセージで退位の意向を強くにじませたお言葉を伝えられたのをきっかけに、政府の有識者会議での議論や衆参の正副議長による国会見解取りまとめを経て合意形成が図られ、江戸時代の光格天皇以来約200年ぶりとなる退位に道が開かれた。

 陛下一代に限った特例法で、皇室典範の「終身在位」の原則は変わらない。とはいえ、政府は「先例になり得る」との見解を示しており、第1条に書き込まれた法制定の事情にある「ご活動が困難となることを深く案じておられる」などが、将来の退位において要件になるとみられている。

 近代天皇制を巡る歴史的な一歩といえよう。さらに女性皇族が結婚後も皇室にとどまれるようにする「女性宮家」の創設を検討するよう政府に求める付帯決議も可決された。いずれも合意形成に腐心した自民党が民進党の主張に歩み寄り、決着した。だが両者の間にある溝は深く、皇位の安定継承に向けた議論の道筋は全く見えてこない。

 皇族減少が皇室の将来に深刻な影を落としているという目の前の現実を直視して、国会は法施行を待たず、議論を前に進めることに力を注ぐべきだ。後世に不安と混乱の種を残し、歴史的な一歩を無に帰するようなことがあってはならない。

 付帯決議は「安定的な皇位継承を確保するための諸課題、女性宮家の創設等」について、政府に法施行後速やかに検討し国会に報告するよう求めている。自民党は党内に女性・女系天皇につながりかねないと女性宮家への警戒感が根強くあり、民進党との協議で女性宮家の明記を最後の最後まで渋ったが、合意形成を優先して折り合った。

 ただ決議の中で、皇位継承と女性宮家を並列の関係に置き、二つの課題を切り離して検討する体裁を整えた。また民進党は検討の開始時期を早めるよう求めたが、応じなかった。政府は2018年12月の法施行-退位を想定しており、1年半も間が空くことになる。

 さらに参院の法案審議で女性・女系天皇が取り上げられた際、政府は「男系継承が古来、例外なく維持されてきたことの重み」を強調した。戦後に皇籍を離脱した旧宮家を復帰させる案が念頭にあるとみられ、典範に定めがある「男系男子による皇位継承」を重視する姿勢を崩していない。

 女性宮家創設を皇室減少対策に押し込め、皇位継承問題については時間がかかっても、あくまで旧宮家の復帰を模索したいとの政府、自民党の思惑が見て取れる。だが一般国民になり70年がたち、そうした人が果たして復帰に応じるか、あるいは国民に皇族として受け入れられるかといった疑問が指摘されている。

 保守層を意識し最初から選択肢を絞り込んでしまうのではなく、女性宮家創設とともに議論の俎上(そじょう)に載せ、実現に向けた課題を徹底的に検証するのが筋だろう。しかも、陛下が退位して皇太子さまが即位されると、秋篠宮さまより若い皇位継承者は長男悠仁さまだけになることを考えると、急がなければならない。

 「象徴天皇の務めが常に途切れることなく、安定的に続いていくことをひとえに念じ…」という陛下のお言葉と、それに対する国民の支持を踏まえた議論を求めたい。(共同通信・堤秀司)

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