ヤマユリの花は堂々たる大輪で、香りも強く「ユリの王様」と呼ばれる。1・5メートル近くまで伸び、初夏の山あいを華やかに彩る、神奈川県の県花でもある。そのヤマユリの名をつけた知的障害者施設で、凶行は起きた◆相模原市の施設。元職員の男が、入所者たちを次々に刺し殺した。「障害者なんていなくなってしまえ」「安楽死させる世界を」-。伝わる動機はいずれも、偏見と憎悪に満ちている◆入所者が寝入ったのを見計らって押し入り、重複障害者ばかりを狙った。防犯カメラがとらえた男の姿からは、迷いやためらいは、まったく感じられない。送検される車中、男は笑みを浮かべた。その胸にあるのは、やり遂げた満足感だとでもいうのか◆知的障害者の家族らでつくる「全国手をつなぐ育成会連合会」が緊急声明を出した。「私たちの子どもは、どのような障害があっても一人ひとりの命を大切に、懸命に生きています」「無残にも奪われた一つひとつの命は、そうしたかけがえのない存在でした」と◆男を知る人の証言には、礼儀正しい、明るいなど好印象が少なくない。職場でも偽りの笑顔を周囲に振りまきつつ、心の中で憎しみを募らせていたのか。遺族にすれば、裏切られた思いだろう。事件後、遺族の元にユリが届けられたと聞いた。せめて安らかに、と願う。(史)

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