ここ数年、男子大学生の健康診断、特に尿検査の風景に変化が見られるようになった。尿検査では、小便器を使用せず、個室の洋式トイレを使用する学生が顕著に増加している。検尿カップを持って、尿を採取する姿を誰かに見られるのがつらいのだろう。

 5月4日の佐賀新聞では、「鳥栖市は本年度からトイレを改修する市立小中学校10校について、心と体の性が一致しないトランスジェンダー(性同一性障害を含む)の児童生徒にも配慮し、男子トイレから小便器をなくし、すべて個室で洋式化する方針を決めた。多様性を尊重する先駆的な取り組みに注目したい」と報道されている。

 その理由に、家庭のトイレは9割以上が洋式化されているのに対し、小中学校は全国的に耐震化優先で洋式化が遅れている。鳥栖市内の小中学校の洋式化率は40%台半ばで、古くて「臭い」「汚い」「暗い」と評判が悪いと指摘されている。

 その一方で、ザルツブルグ(オーストリア)のアレルギー調査によると、農家の子と都会の子を比較した場合、ぜんそくは1%対11%、花粉症は3%対13%、アトピーは12%対29%。私たちは長きにわたり文明を築き、街中には家畜も細菌も無い「超清潔社会」になったが、その代償として、体の免疫力も低下していると言える。確かに、トイレの水洗化が進んで洋式が普及し、ハエを見る機会もなくなった。

 「超清潔化」現象は体のアレルギー現象にとどまらず、人間関係においても完ぺきを求める人が増えている。米国保健センター関連の雑誌では、「社会的な連帯力(群れる力)の低下」が問われている。個別化(個人化)、多様性などを求め過ぎると、人と人とがかかわった群れる力が失われ、「自分が周囲からどう見られているのか」を過剰に意識し、集団の中に溶け込めない学生が増えてくるという現象だ。

 小便器の廃止が、今後の日本社会において、どのような変化をもたらすのか。多様性を認め合う社会と集団力の低下という2つの相反する側面から、その経過を追いたい。

(佐賀大学保健管理センター長・精神保健指定医 佐藤武)

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