看護師資格を持つ運転適性相談員の北村昌弘さん(奥)。高齢ドライバーや家族の悩みに寄り添っている=佐賀市の運転免許センター

 佐賀県内で増加傾向にある運転免許の自主返納。高齢者の中には公共交通網が乏しい地域で暮らし、買い物や通院で自家用車を手放せない人も依然として多い。「運転を続けるかどうか」-。重大事故が報じられるたび、心が揺れる老境のドライバーと家族がいる。

 路線バスが数時間に1本しか走らない県東部山間部。「タクシーも通らないここでは、自分の車がないと暮らせない」。住民の男性(91)がつぶやいた。

 最寄りの商店は過疎化で閉じ、買い物は遠出する。歩いたら30分以上かかる病院への通院もあり、週2回はハンドルを握る。運転歴は約60年。「80代を過ぎてから交通量や通行人の多い道は怖くなった」。慣れた道をゆっくり運転する。

 ▽いざという時

 同じ年齢の妻と2人暮らし。近くに住む息子夫婦が買い物を手伝ってくれるが、「あまり迷惑はかけられない」。親類から「事故を起こしてからでは遅い」と免許の返納を勧められても「急病とか、いざという時に車があれば安心できる。夫婦の命綱のようなもの」。踏ん切りはつかない。

 別の男性(82)は昨年秋、外出先の用事が長引き、夜道を久しぶりに運転した。通り慣れた道なのに、どこを走っているのか途中で分からなくなった。頭の中が真っ白になり、山道を20分以上さまよった。「ニュースが伝える高齢者の事故はひとごとのように思っていたけれど、当事者になるかも」。免許返納を決意し、すぐに手続きをした。

 ▽サポート 

 今は同居の家族が送迎してくれる。「不自由さが運転をやめて分かった。サポートがなければ、まず返納はできない」と男性。緊張感を覚える運転の機会を失い、「老け込むのではないか」。不安を振り払うように自転車に乗っている。

 運転免許センター(佐賀市久保泉町)には、認知症や意識障害などに関する相談が1日に2、3件あり、多い時は10件に上る。昨年4月からは専門的な知識がある医療系の運転適性相談員2人が対応している。

 ▽助言慎重に 

 看護師だった北村昌弘さん(62)は、高齢ドライバーに「事故の恐れがある」と伝えるのを控えるように心掛けている。認知症の高齢男性の親族から相談を受けた際は「日常生活に支障はないですか?」と男性の健康面を気遣い、受診を働き掛けるように助言した。「運転が生きがいという人に、直接的な表現をすると傷付けてしまう。声の掛け方から慎重になる」

 切羽詰まった様子で訪ねてくる家族が多い。「運転するのは危ないって説得しているのに、納得してくれない。どうしたらいいんでしょう」。そう言って頭を抱える姿は、高齢化社会の実情をそのまま映し出す。

 北村さんは「代わりの交通手段を確保するだけじゃなく、心のケアや家族同士が同じ悩みを共有できる場があれば」と切に願っている。

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