「純粋であればあるほど人生というものは悲劇だ。人間はすべて矛盾の中に生きている。だから矛盾に絶望してしまったら負け、落ち込むのだ」-。芸術家の岡本太郎(1911~96年)の言葉である。「矛盾の中で面白く生きようと、発想を転換することはできないだろうか」◆私たちは矛盾の中に生きていて、時に現実家だったり、夢想家だったりする。例えば、オバマ前大統領。昨年、歴代大統領で初めて被爆地・広島を訪れて「核なき世界」を訴え、被爆者と抱き合った姿は、実に美しかった◆が、あの時、オバマ氏は「核のボタン」を携えてもいた。実際にはボタンではなく、発射に関わる書類を収めた革のかばん、通称「核のフットボール」である。同行の米兵に持たせていた。被爆地に核のボタンを持ち込んでおきながら、「核なき世界」を訴える-。これは矛盾に違いない◆先月、国連で採択された核兵器を非合法化する条約に「ヒバクシャの受け入れ難い苦しみ」が記されたが、当の日本は参加しなかった。米国の「核の傘」に頼る立場に反するからだ。唯一の被爆国が核に守られる現実もまた、皮肉な矛盾である。だが、矛盾があればこそ、理想は高くと願ってはいけないか◆72年前のきょう、学徒動員の少女が第一報を伝えた。「広島が全滅です」。繰り返してはならぬ。(史)

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