「青春とは一個の困惑である」と言ったのは作家の三島由紀夫だ。若きころは、自分は何者であるか、目の前にどんな世界が広がっているかといった問題に直面し、惑い悩むものである◆そんな若者の葛藤と挑戦の物語である五木寛之さんの大河小説「青春の門」。九州・筑豊に生まれた主人公の伊吹信介が、戦中戦後の激動期、さまざまな出会いを経て、たくましく成長していく姿を描く。高校生のころ、第1部の筑豊篇を熱に浮かされたように読みふけった思い出がある◆23年ぶりの新作となる「新 青春の門」の連載が「週刊現代」2月4日号から始まった。今作は第8部の風雲篇に続きシベリアが舞台。時代は1961年で、冷戦が深刻化し、ベルリンの壁ができた年だ。不法入国者である信介はパスポートを持たずにこの土地をさまよう。テーマは「漂流」だろうか◆英国の欧州連合(EU)離脱に米国のトランプ政権の誕生…。国が方向を見失っているようにも見える。行き場を探し求める移民と難民の問題はまさに今、世界を大きく揺るがす要因だ。84歳の五木さんは「北方領土問題はシベリア出兵を踏まえなければ分からない」とも言う◆一人の若者の彷徨(ほうこう)と時代が切り結び、青春の物語に過去から現代を照射する視点が絡まる。一編の小説から、多くのことが透けて見える。(章)

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