祈りの日がめぐってきた。熊本地震から1年。桜が彩る熊本城に向かい、崩れた石垣の中から発見された線刻の観音菩薩像と向き合った◆石の表面に刻まれたかすかな線に目をこらすと、後光を背負い、顔を伏せた姿がどうにか見て取れた。思わず手を合わせる。「石垣が崩れるような事態で観音様を見た人々を励ますためのものだったのか、そこには祈りがあった」-。石を安置する加藤神社の湯田崇弘宮司の言葉が添えてある◆この堅固な石垣さえも突き崩すような天災が、いつかやって来るかもしれない。そう考えて石垣に観音像を忍ばせたのだとすれば「この像が陽(ひ)にさらされる日なんて、絶対に来てくれるなよ」と念じながら組んだに違いない◆今、熊本市現代美術館では、東日本大震災の東北と熊本をつなぐ展覧会が開かれている。展示物は、避難所で活躍した紙製パイプの間仕切りやダンボール製ベッド、仮設住宅で見知らぬ同士を結びつける拠点「みんなの家」の模型など。過去の被災が、熊本へと生かされてきたのが分かる◆熊本城で桜の花に包まれて記念撮影する人たち。誰かが言った。「今年はこうだったっていう記録にね。石垣をバックにね」。みな笑顔はどこか控えめだ。観音様の石垣石に、おさい銭を上げて手を合わせる人も。「一日も早い復興を」。祈りが広がる。(史)

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