季節の言葉の「小春日和」。晩秋から初冬にかけての暖かく穏やかな晴天のことである。木枯らし、時雨、小春日和を繰り返して冬に向かう。気象エッセイストの倉嶋厚さんは、この言葉を愛した◆「小春日和の暖かさは、別れを決意した相手がふとした瞬間に見せるやさしさにも似て、惜別の思いをかえって募らせることがあります」。そう自著に書いている。自身の病や妻の死、その喪失感から発症したうつ病…。苦しい中にも季節は巡り、陽(ひ)の差す時は来るものだと悟ったという◆その倉嶋さんが93歳で逝った。気象庁を退職し、テレビの気象キャスターに転じた。暮らしに根づく季節の話題を温かい口調で紹介し、天気予報を文化とも思わせた人である◆自分のことを、日本の空に恋してしまった一介の気象予報技術者と呼んでいた。エッセーの名手だったのも、気象と人間のかかわりを、知識と深い思索から優しいまなざしで説いたからだろう◆人生の天気予報ほど当てにならないものはない。倉嶋さんは心配事があっても、その時はその時のことと考えるよう諭した。「小春日和の『今』を味わうように、木枯らしの吹く日は木枯らしの、雪の降る日は雪の日の『今』を切に生きるほかはないのです」と記す。生きてさえいれば人生は展開する-。私たちを勇気づけてくれる言葉だ。(章)

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