「上野でいちばん大きな顔してるのは、西郷さんだと思ってた」-。東京・上野公園を散歩していると、小高い丘で巨大な顔に突き当たる。人の背丈ほどもあろうか、顔だけのレリーフ「上野大仏」である。JR東日本の観光ポスターに添えられたキャッチコピーが、なんともユーモラスだ◆現在は顔だけが壁に埋め込まれているが、最初からこの姿だったわけではない。1923(大正12)年9月1日午前11時58分、東京をマグニチュード7・9の巨大な揺れが襲った。関東大震災は快晴の東京を、瞬時に死の都へと変えてしまった◆昔ながらの木造建築は崩れ落ち、各所で火の手が上がった。強い風に炎が巻き上がる「火炎旋風」も発生し、人々をのみ込む。死者・行方不明者は10万5千人。元々は釈迦(しゃか)が座る姿をかたどっていた上野大仏も激しく揺さぶられ、ついには頭部が落ちる◆その後、元の姿に再建されることもないまま、時代は第2次世界大戦を迎え、青銅製の胴体部分は金属供出令で失われてしまう。実は大仏の頭が破損するのは初めてではない。1855年の安政の大地震でも大きな被害を受けている◆関東大震災から94年、いくつもの災害があり、多くの命が失われてきた。「備えよつねに」-。数奇な運命をたどった大きな顔と向き合うと、そう語りかけてくる気がする。(史)

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