開門派との意見交換会で国の立場を説明する横井績課長(奥)ら農水省の担当者=6日、東京・永田町の衆院第1議員会館

■開門で劇的再生「疑問」

 農林水産省農地資源課の高橋広道室長は、気色ばんでマイクを握った。「国は開門を命じた確定判決に従って全力で取り組み、長崎県や営農者の説得に回った。開門の事前対策工事も、被害が出ない考え得る完璧なものを提案した」

 6日に都内で開かれた漁業者側と農水省の意見交換会。漁業者側弁護団から「基金案には一生懸命だったが、開門差し止め訴訟への対応は不十分で、開門に向けた努力が足りない」と非難されての反論だった。

 実際、農水省は、2010年12月に5年間の開門を命じた福岡高裁判決が確定すると、長崎県側からの100項目に近い質問に答え、開門の予算獲得にも奔走した。

 ただ、今も開門は実現していない。

 国営諫早湾干拓事業を巡っては排水門の開門と非開門の訴訟が乱立する。確定判決後、開門実施の猶予期限が切れる目前の13年11月、開門差し止めの仮処分が決定。国は開門と開門禁止の相反する義務を負った。司法は「分断の海」の象徴になった。

 長崎地裁では昨年1月から国、漁業者側、営農者側の三者が初めて和解協議を始めた。開門しない前提とあって、全開門の権利を持つ漁業者側が応じるはずはなく、100億円の基金案に佐賀を除く3県の漁業団体から賛同を得たものの、最終盤の開門を含めた並行協議の提案は営農者側が拒否。和解協議は3月27日、1年2カ月で頓挫した。

 「話し合いで答えを見いだしていく難しさ、厳しさを改めて感じた」。直後の会見で農水省農地資源課の横井績課長は声を落とした。決裂の要因は、開門の議論を避けたことにあるが、そもそも開門の効果に対する考え方に、国と漁業者側では大きな溝がある。

 漁業者側弁護団は「確定判決では開門期間を5年に区切ったが、開けさえすれば一発ではっきりする。環境は改善し、国は閉めると言えなくなる」と開門の効果を疑わない。国は「環境アセスでも、シミュレーションにより開門の効果は限定的だと科学的に証明されている」と主張する。

 和解協議で漁業者側弁護団は、基金案を「開門に代わる抜本的な再生策ではない」と断じた。農水省の職員は抗弁する。「何かをやれば最盛期のように有明海が劇的に再生する-。開門を含め、現実的にそんなものがあるのか疑問だ。できもしないことを議論しても仕方ない」。この隔たりが、「国は開門に後ろ向きな無気力相撲」と漁業者側に映っている。

 先の意見交換で、漁業者側弁護団は、長崎地裁が17日に言い渡す開門差し止め訴訟の判決を前に、くぎを刺した。差し止めの仮処分決定を踏まえ、「国は負けるだろう。間違っても、控訴せずに(開門を認めない)判決を確定させるつもりはないでしょうね」。

 泥沼状態の法廷闘争。判決で白黒をつけることは、三者とも望んではいない。今後、福岡高裁の場で改めて和解協議による解決の道を探る-。一筋の望みを託すが、実現は見通せない。

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