碁会所につぼを並べている藤永さん。焼き物も囲碁も同じ伝統文化と話す

藤永勝之さんが自らの退職祝いに購入したつぼ=鹿島市

藤永さんが「アジサイの色使いが素晴らしく、つぼの形も気に入っている」と話すつぼ

■退職祝いのつぼ 碁会所に飾り交流潤す

 陶器市のテントに並んだ数ある品から、このつぼを見つけたとき、そこだけまばゆく光って見えてね。焼き物好きの妻と「今日は見に行くだけ」って話していたのに、すっかり一目ぼれ。「退職祝いに」と、値段も見ないで買った。

 地元の高校を卒業し、近くの鹿島郵便局に40年近く勤めた。幼い頃から絵が好きで、社会人になってからは書や囲碁を始め、文化や芸術に親しんできた。

 このつぼとの出合いは15年前、郵便局を辞めた翌年だった。有田町の陶芸家、藤井勝雲さんの作品で、有田陶器市に行く途中、長崎県波佐見町の陶器市に立ち寄ったときに見つけた。後日、家まで届けてくれた勝雲さんとは初対面だったけれど、名前の4文字のうち「藤」と「勝」が私と一緒。親近感を覚え、笑い合ったのを覚えている。

 手書きのアジサイの色使いが素晴らしく、花の間の余白もいい。自分への初めてのご褒美だったから、今も思い入れが一番強いよ。

 それから妻と2人で毎年、「見に行くだけ」って言いながら陶器市に出掛けるようになった。でも、近年は買うことが少なくなったかな。茶わんや皿といった実用品が多くて、つぼとか芸術作品をあまり見掛けなくなったような印象で、寂しいね。景気が低迷して、昔みたいに売れないのかもしれないけれど、作品を買って芸術家を応援したり、若い芽を伸ばしたりするのも大切だと思うんだけど。

 鑑賞用の焼き物は、絵と同じように心のゆとりを養う。そういう意味では暮らしに必要なもの。隣近所に無関心で、殺伐とした事件が起きる時代だからこそ、ゆとりある心を育むことが他者への関心や人助けにつながるんじゃないかな。

 囲碁仲間が集えるように2年前、自宅の隣に碁会所を造った。碁盤を並べた交流スペースに、集めた焼き物はみんな飾ってある。囲碁も焼き物も同じ伝統文化だからか、雰囲気が合う。妻からは「大事にしまっておかないの?」と尋ねられたけれど、焼き物があると、場が潤うというか、部屋の空気が違ってくる。

 近所の鹿島高校に今年、囲碁愛好会ができて、部員の1年生5人がこの碁会所に通っている。近ごろの若い人はスマートフォンばかりに目を向けがちだけど、碁盤や焼き物に囲まれて過ごして、普段とは違う何かを感じてもらえたらいいな。

=余録= 不思議な縁

 15年前の陶器市で、藤井勝雲さんが手掛けたつぼが「ピカッと光って見えた」という藤永勝之さん。その翌年と翌々年、有田陶器市に出掛けたところ、「いいな」と直感で手に取ったつぼは偶然、どちらも勝雲さんの作品だった。

 この三つのつぼを手に入れたころ、さらに驚いたことがあった。藤永さんが以前から所蔵していた作品の作者が、勝雲さんの兄、朱明さんと分かったという。

 焼き物を通じた不思議な縁。藤永さんはそもそも、公私にわたって人付き合いは広い。「こつこつと真面目にやってきたけれど、気持ちや考え方が同じ人とは、出会うべくして出会うんでしょうね」

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