鹿島市沖の環境調査に取り組む佐賀大の速水祐一准教授。干潟や浅い海域を重点的に調べている=2015年8月、佐賀県鹿島市沖

■異変検証へ積み重ね

 干満の差は日本一を誇り、東京湾や大阪湾とほぼ同じ海域の広さでありながら日本の干潟の約4割を占め、ムツゴロウなど特有の生物が多い-。特異な環境を持つ有明海の総合研究プロジェクトに参加するため、12年前に愛媛大から移ってきた佐賀大低平地沿岸海域研究センター准教授の速水祐一さん(50)。環境の変化を調べる中、海域によって過去のデータが不足していることに気付いた。「行政の失策だ」

 有明海の研究が活発になったきっかけは、不漁にあえぐ漁民の声だった。2000年に養殖ノリの大規模な色落ち被害が起き、1997年に諫早湾奥を閉め切った国営諫早湾干拓事業の影響が疑われた。有明海の再生や漁業振興を目指す特措法が2002年施行、国などが本腰を入れて調査をするようになった。

 特措法に基づき、環境省に設置された総合調査評価委員会が今年3月にまとめた報告。水質や底質、潮流の変化、海域別の特徴など多岐に渡り、研究者や国などの知見やデータが盛り込まれている。

 ただ、「2004年以前のデータがなく、(豊かだった)1970年ごろと比較できない」。各所でこうした記述も目立つ。特に乏しいのは、閉め切り以前の諫早湾内のデータ。沿岸4県が1970年代から続ける浅海定線調査では、諫早湾内だけが調査の範囲から抜け落ちている。

 海底付近で貝などが酸欠死する「貧酸素水塊」の現象は2000年代以降、有明海奥部と諫早湾で頻繁に発生。だが諫早湾内で過去もそうだったのかが不明なため、干拓事業の検証を妨げる要因になっている。

 国に開門調査を命じた福岡高裁判決が10年12月に確定したことを受け、佐賀大を中心に沿岸4県の大学が連携する共同プロジェクト「COMPAS」が13年度に動き出した。専門の異なる研究者約20人が「第三者の立場から開門の効果を評価しよう」と、潮流や底生生物などの分野でデータを集めている。

 メンバーの藤井直紀佐賀大特任助教(39)は「今までは佐賀大だけでやっていたことが、4県で連携してやれている。各地域の状況や考え方を研究者間で共有できている」と話す。一連の訴訟で開門が実現せず、現状ではデータは蓄積される一方。それでも「いざという時の材料になる」。

 有明海沿岸では、地道な調査活動の芽も出始めている。国際的に重要な湿地と認める「ラムサール条約」の湿地に登録された佐賀市、鹿島市と熊本県荒尾市の3カ所の干潟。荒尾市の県立高校では5年前から教諭と生徒が荒尾干潟の調査に取り組み、佐賀市の干潟を調べる研究者もいる。

 鹿島市は2年前から環境調査の予算に年間200万円を組み、速水さんが沿岸海域を調べている。「これまでローカルな調査はあまりなかった。科学的なデータが残っていれば、何か異変が起きた際の検証の足掛かりになる。環境を守るには、これからの積み重ねが重要だ」

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