安倍晋三首相がトランプ米大統領との初めての首脳会談に臨んだ。緊密な同盟関係を確認した上で、貿易分野などを幅広く話し合う新たな枠組み「経済対話」の立ち上げで合意した。

 安全保障分野は「満額回答」、経済分野は「及第点」と言っていい。「揺らぐことのない日米同盟はアジア太平洋地域における平和、繁栄、自由の礎だ」と同盟関係の重要性を確認できたばかりか、共同声明に「尖閣諸島」に対する米国の防衛義務まで盛り込んだ。

 首脳間の文書に尖閣諸島が明記されるのは初めてであり、「核の傘」の提供も記された。覇権主義を強める中国へのけん制となるのは間違いないだろう。

 ただ、これまでは中国への強硬姿勢が目立ったトランプ氏だが、軟化の兆しも見える。習近平国家主席との電話会談では、中国と台湾は不可分の領土だとする「一つの中国」の原則を尊重すると伝えた。外交にも「取引」を持ち込むトランプ氏だけに今後、米中が急接近する事態も考えられる。

 日本としては、米中の距離感をにらみつつ、中国との関係改善も図っていくべきだろう。

 挑発行為に出た北朝鮮の動きも気がかりだ。オバマ政権は「戦略的忍耐」を掲げ、経済制裁に徹した。この間、北朝鮮は核やミサイル開発に突き進み、周辺諸国への脅威は増すばかりだった。

 いかに北朝鮮の暴走を防ぐか。この点に絞れば、中国とも協力関係を築けるのではないか。

 というのも、中国の姿勢に微妙な変化が見られるからだ。中国がまとめた戦時演習ガイドラインが明らかになったが、友好国のはずの北朝鮮を、「仮想敵」に匹敵する脅威と位置付けている。状況次第では、中国が擁護する姿勢から転じる可能性もあるだろう。

 東アジア地域への米国の関与を引き出した点で、実り多き会談だったが、経済分野については手放しでは喜べそうもない。

 確かに、トランプ氏が名指しで批判してきた貿易不均衡は取り上げられず、自動車分野も、為替水準も問題視されずにすんだ。

 だが、これで安心するわけにはいかないだろう。

 新たに設ける「経済対話」の場が、これからの“主戦場”になっていくのではないか。麻生太郎副総理兼財務相とペンス副大統領をトップに据えて、貿易・投資分野などを幅広く協議するという。「米国第一主義」に基づいて、具体的な要求を突きつけてくるのはこれからだと考えておくべきだ。

 もうひとつ、安倍首相とトランプ氏の親密ぶりをアピールする影で、大切なテーマが抜け落ちてはいないか。

 これまで日米が共有してきた、自由や人権などの「基本的価値」の位置付けである。共同会見ではトランプ政権による入国制限についての質問も飛んだが、安倍首相は「内政問題」としてコメントを避けた。今回は就任後初の首脳会談でもあり、同盟関係の確認が最優先という姿勢もやむをえないのかもしれない。

 だが、この先もひたすら追従するようでは困る。国際社会がトランプ流に懸念を強めている以上、日本が同盟国として橋渡し役を務める局面も出てくるだろう。同盟関係の緊密さが試されるのは、これからである。(古賀史生)

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