九州電力玄海原発が再稼働に向けて、さらに一歩、歩を進めた。佐賀、福岡などの住民らが3、4号機の再稼働を認めないよう申し立てた仮処分について佐賀地裁は13日、却下の決定を下した。

 原発の再稼働をめぐる司法判断は東京電力福島第1原発事故を受け原子力規制委員会が策定した新基準への適合を根拠として、再稼働を認める決定が続く。今回もその流れに沿ったものと言えよう。

 しかし新基準合格は「絶対安全」を意味するものではない。高度の専門領域に対する司法の限界もあろうが、原発への不安を拭えない住民の目線に立った判断か、批判の声が上がるのも当然だろう。

 再稼働を目指す国や九州電力にとっては大きな障壁を乗り越えたことになる。地元玄海町の岸本英雄町長に続いて山口祥義佐賀県知事は4月末、再稼働への同意を表明した。年度内ともいわれる再稼働に向け、手続きは着々と進む。

 そうした動きと呼応して、電力会社の経営や立地自治体の運営に関する数字が公表されている。

 九州電力が発表した今後5年間の財務目標は、グループ連結経常利益を年平均1100億円以上確保し、内部留保の取り崩しで一時は10%を割った自己資本比率を20%程度に復活させる計画だ。

 玄海町は原発の長期停止による電源交付金などの減少や固定資産税の目減りで、本年度、地方交付税の「交付団体」に転じるとの試算を明らかにした。立地による潤沢な財源に依拠してきた町にとって1994年の3号機運転開始後、23年ぶりの“転落”となる。

 ただ3、4号機が年内に稼働すれば不交付団体に戻るという。九電の財務目標も鹿児島・川内原発1、2号機に続いて玄海3、4号機が稼働することを前提としている。裏を返せば再稼働への期待がにじみ、既に稼働後を見据える。

 確かに地元手続きは終了した。あとは規制委員会による工事計画などの審査と使用前検査が残るだけだ。だが、これを既定路線とするのではなく、原発の存在に正面から向き合い、これからの原発・エネルギー政策をどうするべきか、虚心に考える機会としたい。

 原発の再稼働をめぐる論議を振り返ると、電力会社の経営問題、ひいては電気料金の値上げ、また長期停止に伴う地元経済への影響など、直面する負の要因が根源的な論議を損ねてきた印象がある。

 また一方で、見直し時期を迎えた国のエネルギー基本計画では原発の新増設や建て替えの動きが伝えられる。岸本玄海町長は玄海1号機の廃炉を踏まえ「3、4号機だけでは供給面に心配がある」と新増設の必要性を口にする。

 国民的な論議を経ないままの「原発回帰」は許されない。当面は稼働状況を注視し、過酷事故への備えを求めながら、中長期的な視点に立って熟考する時だ。

 過去の司法判断の中で、大飯原発の再稼働差し止めを命じた福井地裁判決は「原発停止で多額の貿易赤字が出るとしても、豊かな国土に国民が根を下ろして生活できることが国富である」とし「これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失だ」と論じた。

 福島第1原発事故から7回目の夏を迎える。原発依存脱却のための立地自治体支援を含め、50年後、100年後を見据え、真の国富とは何か、考えたい。(吉木正彦)

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