米国の対シリア攻撃を受けて、米ロ関係が冷え込んでいる。ティラーソン米国務長官の訪ロはシリア問題解決に向けた進展がなく、国連安全保障理事会でのシリアでの化学兵器使用非難決議案は、ロシアの拒否権行使で否決された。

 2011年に始まった民主化運動が内戦に発展し、今や米ロなど各国が軍事介入しているシリアは、40万人が死亡し、500万人以上が国外に難民として逃れた「21世紀最大の悲劇」(グテレス国連事務総長)である。

 米ロ両国は和平協議を先導しなければならないのに、トランプ、プーチン両大統領がメンツのために責任を果たさないのは嘆かわしい。米国のシリア攻撃の後もアサド政権軍は反体制派への攻撃を続けており、死傷者が報告されている。

 シリアでは、アサド政権と反体制派、過激派組織「イスラム国」(IS)、クルド人組織が戦闘を続けている。ロシアがアサド政権の後ろ盾となり、米国が反体制派やクルド人組織側に立つ複雑な状況だ。

 トランプ氏はIS壊滅のためにロシアと協力し、アサド政権の存続もやむを得ない、との立場だったが、4月初旬の化学兵器攻撃で突如、反アサド政権に転換し巡航ミサイルでの攻撃に踏み切った。ロシアは化学兵器の攻撃主体が確認されていないとして「国際法違反だ」と反発している。

 イタリアで開かれた先進7カ国(G7)外相会議は、米国による攻撃に理解を示した上で、和平に向けた影響力の行使をロシアに促した。この後ロシア入りしたティラーソン氏だが、溝は埋まらなかった。両国は関係改善の作業部会を設置したものの、両国関係は「史上最低かもしれない」(トランプ氏)という。

 米ロのシリアを巡る対立の背景には、勢力圏争いがある。

 ロシアは15年にシリアに軍事介入を始めて以来、無差別と呼んでもよいような攻撃で反体制派やISを劣勢に追い込んだ。シリアにあるロシアの海・空軍基地も拡充し、親ロシアのアサド政権を軸とした和平を実現してシリアをロシアの圏域に組み入れる狙いだ。

 ロシアはリビアやエジプトでも影響力を拡大しており、1970年代以来手を引いてきた中東・北アフリカへの回帰を強めている。

 米国はオバマ政権の軍事介入抑制戦略が、シリアなど破綻国家の出現とロシアや中国の勢力拡大に帰結したとして、巻き返しの構えだ。トランプ氏は内政で看板公約が実現できず失速気味のために、「強い大統領」をアピールする狙いがある。またこれまでの対ロ接近方針が厳しく批判されたことから、「反ロ」に転じる必要があった。

 米ロはこうした自国の事情を優先しシリアの和平を考えていないのではないか。ロシアのアサド政権支持は、残虐行為を重ねた同政権を許さないというシリア国民の多数派の思いを無視している。一方の米国は今回懲罰空爆をしただけで、和平案を持っていない。これでは大国のエゴに憤るシリア国民がISなど過激なテロ組織を支持してしまう懸念もある。

 米ロは世界のもう一つの課題である北朝鮮の核ミサイル開発の解決でも協力が欠かせないはずだ。メンツよりも、地域の安定や平和が結局は、国益につながるという視点を持つべきだ。(共同通信・杉田弘毅)

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