「共謀罪」が再び国会に提出されようとしている。今度は組織的なテロ行為に重点を置く「テロ等準備罪」と名前を変える。しかし、市民が共謀関係を疑われ、逮捕される可能性は残る。憲法の理念や刑法の原則に抵触する恐れもあり、慎重な議論が必要だ。

 政府が法案成立を急ぐ理由に挙げているのが、3年後の東京五輪のテロ対策だ。各国と犯罪情報を共有できるように、国連の国際組織犯罪防止条約を批准するためにも、国内法の整備が欠かせないと説明する。

 これまで共謀罪は3度廃案になった。犯罪を話し合ったり、仲間と目配せしただけで罪に問うのは憲法の「思想の自由」(19条)や「集会、結社、表現の自由」(21条)に抵触するだけでなく、犯罪の実行着手を構成要件とする刑法の原則とも相いれないためだ。

 近く提出する法案は「テロ等準備罪」と名前を変え、暴力団などの集団が犯罪計画の共謀に加え、凶器の購入やそのための資金調達など犯罪の準備行為をした場合に適用される。

 対象となる犯罪はテロだけに限らない。懲役・禁錮4年以上の犯罪で、600以上が対象になるが、公明党の指摘を受け、半分程度に減らすとみられる。「組織犯罪が対象で、一般市民に関係ない法律」と国民に理解を求めていく考えだ。

 ただ、テロリストは暴力団のように“看板”を掲げて行動するわけではない。普段は市民の中にとけ込んでいる。法案は組織に限定し適用するというものの、テロ捜査は市民も対象となるだろうし、誰もが知らぬ間に組織との関与を疑われる可能性はある。

 捜査機関は共謀関係の立証のために何をするだろうか。さまざまな会議の盗聴であり、電話やメールの傍受ではないか。昨年の法改正で、警察が通信傍受できる犯罪の対象が広がった。また、容疑者との司法取引も認められるようになった。

 罪を問わない代わりに密告を促す-。そんな捜査手法が増える恐れがある。その密告にうそはないか。冤罪(えんざい)は生まれないか。「共謀」を犯罪とすることで、戦時中のような監視社会の一歩とならないのか、不安は尽きない。

 新法が本当に必要なのか疑問もある。殺人やハイジャックなど重大事件は、犯罪に必要な物品やチケット購入など準備段階で予備罪に問え、テロを未然に防げる。

 政府が立法理由とする国際組織犯罪防止条約についても、「自国の国内法の基本原則に従い、必要な措置をとる」と各国の判断を尊重している。多くの刑法学者は「共謀罪がなくとも条約批准は可能」と指摘している。

 安倍政権は、自民党にとって4度目の挑戦となる同法案の成立を積極的に推し進めるだろう。しかし、国民の自由や人権に関わる問題であり、憲法や刑法の原点を見つめ、慎重な審議が必要だ。昨年のカジノ法成立のような強引な国会運営は許されない。

 今国会は金田勝年法相の「質問封じ」文書問題で紛糾している。野党の辞任要求の是非はともかく、大臣の国会答弁に国民がどれだけ納得しているだろうか。これだけの重要法案なのに責任感が伝わってこない。真摯(しんし)な対応が政府に求められる。(日高勉)

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