「佐大闘争」に関する資料を示しながら「共謀罪ができれば、権力への反対意見を言いにくい世の中になってしまう」と懸念する今川正美さん=長崎県佐世保市

■「拡大解釈の余地」

 「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ組織犯罪処罰法改正案が与党の強行策で成立する局面に向かったが、「誰が何をすれば罪になるか」という線引きは曖昧なままだ。かつて佐賀で学生運動を担った人や、県内外で市民運動に取り組む関係者は「拡大解釈の余地があり、恣意(しい)的な捜査につながる」と危惧し、既に萎縮する運動も出始めている。

 「権力はいざとなれば何でもする。その怖さを分かっているのだろうか」。1960年代後半に佐賀大学で起きた学園紛争で逮捕された経験がある元衆院議員の今川正美さん(69)=長崎県佐世保市=は、新法が成立しようとしている現状へのいら立ちを隠さない。

 農学部の自治会委員長として学生運動を率いていた68年2月、学生寮の運営などを巡って大学側と団体交渉に臨んでいた。すると突然、県警の機動隊が踏み込んできた。交渉は長時間に及んでいたものの終始、穏やかに進んでいた。それなのに「教官を不法に監禁した」として1カ月後に逮捕され、有罪判決を受けた。

 「国内外で学生運動が熱を帯び、佐賀大にも広がっていく中、それを封じ込めるために狙われた」と今川さん。新法ができれば「市民運動など、権力にとってやっかいな存在を一網打尽にする武器にされるのではないか」と懸念する。

 法案が対象にしている277の犯罪のうち、組織的な監禁罪や威力業務妨害罪などは、市民運動や労働組合活動の抑圧に利用される恐れがあるとして、野党や反対派弁護士は対象から外すよう求めてきた。政府は「一般人には適用されない」と説明するが、誰が「一般人」か、明確な基準を示すことができていない。

 こうした曖昧さは、市民に「もしかしたら罰せられるかも」という過度の恐れを生み、自由な表現活動の萎縮につながると指摘されている。

 市民団体「玄海原発プルサーマルと全基をみんなで止める裁判の会」は、福岡県の原告が集まる会合の場所を告知文に記さないことにした。仮にメンバーの誰かが捜査や監視の対象になった場合、場所の提供者に迷惑がかかるかもしれないと考えたからだ。「共謀罪」が念頭にある。

 代表の石丸初美さん(65)=佐賀市=は「後ろめたいことは何一つしてないのに自主規制してしまった。安全な暮らしを望むことも公然とできなくなるかもしれないなんて、世の中おかしい」とため息を漏らす。

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