「旧約聖書」には、人類が初めて犯した殺人が記されている。カインとアベルの物語である。兄のカインは土を耕し、弟アベルは羊を飼う。ふたりは同じように神にささげ物をするが、神はアベルが差し出した子羊にしか関心を示さない。嫉妬にかられたカインは、アベルを野原へ連れ出し手にかける◆北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長の兄、金正男(キムジョンナム)氏が殺害された。舞台はマレーシア・クアラルンプール国際空港。北朝鮮の工作員とみられる2人組の女が毒針を刺したなどと報じられている。正恩氏の権力固めか、資産をめぐるトラブルか。さまざまな憶測が飛び交う◆折しもきょう16日は、兄弟の父・故金正日(キムジョンイル)氏の誕生日に当たる。父の死後、身の危険を感じたのか、正男氏は祖国へはたった一度しか戻らなかったという。後継者争いが取り沙汰された当時、正男氏はテレビの前で弟をたたえつつ、自らは後継とは無縁な「ラッキーマン」とおどけていたのだが◆弟を殺したカインは、神からアベルの行方を問われて答える。「知りません。わたしは弟の番人なのでしょうか」。これが人類が初めてついたうそとされる。神は言う。「何ということをしたのか。おまえの弟の血が、土の中からわたしに叫んでいる」と◆かつて北朝鮮は「地上の楽園」と自国を賛美していた。偽りの楽園がきしむ。(史)

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