人間関係、特に上司と部下の間は難しい。落語家の立川談春(たてかわだんしゅん)さんは、師匠の故立川談志の名コーチぶりを思い出す。17歳で入門した時から、談志は親切だった◆「よく芸は盗むものだと云(い)うがあれは嘘(うそ)だ。盗む方にもキャリアが必要なんだ。最初は俺が教えた通り覚えればいい」。談志はそう言って、前座噺(ぜんざばなし)をスラスラしゃべり、お辞儀の仕方から、扇子の置き方まで教えた。相手の進歩に合わせながら導く。談志のすごさはその一点にあった◆後年、酔った談志は言う。「あのなあ、師匠なんてものは、誉(ほ)めてやるぐらいしか弟子にしてやれることはないのかもしれん」。売れっ子の地位が今日あるのも、師匠の思いやりゆえのこと。談春さんは自著『赤めだか』で振り返る◆働き盛りの男女の5割超が、上司から浴びせられた一言で疲れを倍増させられている-。そんな実態が薬酒メーカーが行った調査で浮かび上がった。その場面の言葉を選ぶ設問では、「常識でしょ(当たり前でしょ)」「そんなこともできないの?」「前にも言ったよね?」が、上位三つだった◆人間関係のもつれほど、心を消耗させるものはない。良好にするには双方向性をもたせることだろう。相手の声にも耳を傾ける。一方的に追い詰めても人は育たない。談志と談春さんとの心の通い合いから学ぶことは多い。(章)

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