インタビューに答える原子力規制委員会の田中俊一委員長=東京・六本木

■原子力技術者の育成課題

 福島第1原発事故の反省に立ち、独立性の高い規制機関として発足した原子力規制委員会。原発が立地する地元住民への思いや規制行政の在り方について田中俊一委員長に聞いた。

 -新規制基準に適合したということの持つ意味は何か。

 「周辺住民に過剰な放射線被ばくをもたらさないのと同時に、環境を汚染して長期に戻ることのできない状況を作り出さないようにすることが新規制基準の骨格だ。具体的には重大事故が発生しても半減期の長い放射性セシウム137の放出量を福島の100分の1以下にする。つまりほとんど長期の避難は必要なくなるというレベルだ」

 -以前、「地元も『絶対安全』から卒業しなければならない」という趣旨の発言をされていた。

 「結局、事業者など原発推進側は地元の意向に合わせて行動しようとする。地元が安全神話を信じることでかえって『不安全』になる。技術的な改善点が分かっても、認めにくくなる。福島の事故前は萎縮していたと思うが、規制委では最近、外部から米セントヘレンズ山(1980年噴火)レベルの火山灰濃度を考慮に入れるべきとの指摘を受け、速やかに対応した」

 -佐賀県も有識者による専門部会を立ち上げて独自に検討している。

 「地元に安全を求める姿勢が出てくれば、事業者もそれに応えようとして意識が高まっていく。規制委としても信頼を得るための努力が必要だ。昨年末、四国電力伊方原発(愛媛県)の地元住民と直接話したが、漁民の方が『もっと勉強しなきゃ』と言われていた。『安心する』というのはそう簡単な話ではない。申し訳ないが、どうしても自ら勉強しなければならない。そのために必要なサポートはしていく」

 -九州電力は「やらせメール」問題で県民の信頼を損なった過去がある。安全文化の醸成という点でどういう印象を持っているか。

 「福島の事故前、『やらせメール』に似たことはどこの事業者もやっていたと思う。地方での説明会や公聴会は半分以上、社員や関係者が参加していたのではないか。月1回、各電力の社長と会い、心を入れ替えてもらう取り組みをしている。見るところでは、九電は素直に反省してやっていると思う。変わった面もあるし、変わっていない面もある。なかなか一回染みついた文化は直らないと思うところもある」

 -再稼働する、しないにかかわらず、地元は廃炉も含めて相当の年月、原発と付き合っていかなければならないが、技術者の育成を懸念する声がある。

 「非常に大きな課題だ。大学の原子力関係の学科がほぼ壊滅している。国会や電気事業連合会にも申し上げているが、事業者、規制サイド、さまざまな分野で人が足りなくなっている。ただ、原子力は物理や化学、電気、機械など各分野の総合技術なので、そこから育てていくべき。今こそ国が主体的に人材育成に取り組むべきだが、極めて心もとない。これだけ原子力を大規模利用しているのに、きちんとした国の研究開発機関がないのは世界中で日本だけだろう」

 -福島の事故から間もなく6年。この間の規制行政の歩みを振り返り、今後の在り方をどう考えるか。

 「組織の発足時、原子力の信頼は地に落ちていた。どう規制行政を信頼してもらうかということで、三つを行動の柱に据えた。一つは透明性。全ての会議を公開している。国の行政でこれほどオープンにしているところはない。革命的な試みだと思う。二つ目は科学的な中立性。最後が、事故前のように事業者や政治の影響を受けない毅然(きぜん)とした独立性だ」

 「今後も、原子力賛成の人も反対の人も利害関係者がさまざまなことを言ってくると思うが、この精神は変えない。やっかいな存在なのです、ここは。そのやっかいさを堅持していくことに存在意義があると思っている」

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